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起(3)若頭キュベリ
“絶対防衛都市コンゴウ”から馬車を走らせ、南下すること1時間。ザックはジェイクが身を隠しているという雑木林に辿り着いた。
馬車から降りると、見張りらしき若者が数人駆け寄ってくる。
「取り込み中だ!! 痛い目に合いたくなければとっとと帰れ!!」
「見張りご苦労さん。間違っても素人さんを近寄らせるんじゃねぇぞ。金にならない殺しなんざウンザリだ」
「お、お前……何者だ!」
「"ザック・ザ・リッパー"……と言えば、分かってくれるかな」
若い衆が動揺し、態度が軟化する。予想以上に二つ名は広まっているようだ。今さら粋がる年でもないが、楽なのはありがたい。。
「若頭のキュベリと話がしたい。案内してくれ」
「へ、へい! こちらへどうぞ」
「これはこれはザックさん。一体誰を殺しに来たんです? 裏切り者のジェイクですか? それとも……アタシですか?」
額に冷や汗を流しながら、卑屈に笑うキュベリ。瞳には焦りが見える。殺し屋が来たとなれば誰でもそうなるだろう。
「なんだ。ボスから連絡は来てないのか?」
「へ、へい。特には何も……」
「じゃあしょうがねぇな。聞いて驚け若頭。このオレがボスから受けた依頼は、なんと説得だ!」
「へ? 説得? 一流の殺し屋のザックさんが、ネゴシエーションに来たんですかい」
「オレだって耳を疑ったさ。だが相手がジェイクの兄貴となればな…」
「確かに、ザックさんの話なら聞くかも……」
「だが、オレとしては先に確かめたい事があるんだよ。分かるな、キュベリ!」
「ヒエッ、な、な、なんでしょう!」
背筋を真っ直ぐ伸ばして硬直するキュベリ。顔には冷や汗が噴き出していた。
「なんでこうも次々と部下に裏切られているんだよ! お前は!」
「す、すいませんザックさんっ! アタシの監督不行届ですっ!」
キュベリは腰から直角に曲げ、必死に謝罪の言葉を並べる。少し責めすぎただろうか。
「………本当にそうか?」
「はいっ! マジで本気に反省してますっ!」
「あ、いや、そうじゃない。お前を疑ってる訳じゃねぇんだ」
「は? と、いいますと?」
「はたしてこれは本当に、お前の監督不行届が原因なのかね?」
「それは……いったいどういうことで……」
「お前はオレの事をどう思っているか知らないが、オレはお前のことを弟分だと思ってる。お前の良いところも悪いところも知ってるつもりだ。少なくともお前は、部下を蔑ろにするようなカスじゃねぇよ」
「あ、ありがとうございます。アタシ、ザックさんの事を誤解してました。殺し方があまりにもえげつないんで、ヤバイ人だとばかり……」
ヤバイ人とは心外だ。
確かにザックは子供の頃からのサイコパスだが、仕事以外で本性を晒したことなど無い。公私ともに自重しないキュベリにだけは言われたくないものだ。
おまけに顔を赤らめながら、こんな事を言い出した。
「これからザックさんの事、兄さんって呼んでいいですか?」
「それはやめろ! キモイから!」
「え~~~~~~!?」
ジョークなら笑ってやってもいい。だがガチは勘弁してくれ。思わず殺したくなるからな。
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