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起(4)モナカちゃんは悪くない!
「話を戻すが今回の件、どうにもおかしい。あり得ないことが次々と起きている。おい、聞いてるかキュベリ?」
「は、はい。聞いてます」
「お前のチームは大所帯だから、一人や二人の裏切り者が出ても不思議はないが、あまりにも立て続けに起きすぎだ。それにジェイクの兄貴が裏切ったとはとても思えねぇ。何か考えあっての行動だと思うね」
「そう……ですかね」
「なんであれ、今の状況は最悪だ。まるで呪いをかけられたみたいじゃないか」
「呪い……ですか」
「もしかしたら、今回のビジネス自体がファミリーを潰す罠だったのかもな。あの"商品"自体が呪詛そのものかも…」
「ザックさん! それは違いますぜ! モナカちゃんは何も悪くありやせん!」
ザックは面食らった。
それまで曖昧な返事しかしてなかったキュベリが、突然はっきりとした口調で、明快に否定したのだ。
「違う? そりゃ確かに憶測の域は出ないが……。いや、ちょっと待て! それ以前に、"モナカチャン"とは誰だ?」
「可愛らしい"ケモノビト"の女の子の事ですよ! まだ8歳なんだから、"ちゃん"付けで呼んだって、別におかしかぁねえでしょう?」
「お前……"商品"の事を名前で呼んでいるのか?」
「そりゃあ、せっかく名前があるんですぜ。呼んであげなきゃ。いつまでも"商品"や"ケモノビト"じゃ可愛そうってもんですぜ」
「え……う……ああ、そうだな」
名前で呼べば情が移る。だから"商品"を決して名前で呼ぶな。それはファミリーの一員になった時に徹底的に教え込まれる、奴隷商売の鉄則である。少なくともザックやジェイクの時はそうだった。キュベリの世代では違うのだろうか?
「キュベリ……お前、大丈夫か?」
「心配してくださって、ありがとうございやす。確かに疲れちゃいますが、まだまだ行けますぜ」
キュベリは振り返り、背後に待機していた若い衆に檄を飛ばす。
「なあ野郎共! モナカちゃんはアタシ達の手で、必ず取り戻して見せようぜいっ!!」
「うおお~~~っ!! やるぞ~~~っ!! モナカたぁ~~~んっ!!」
チームキュベリの士気は、落ちるどころか、ますます高まっているようだ。
だけど……何かがおかしい。
堅物のザックも女性への興味は希薄だったが、キュベリはガチホモの上に、大の女嫌いだった。人権を奪われ、奴隷として売られてゆく娘達を見て、ゲラゲラと笑う。強姦魔とは違う意味で女性の敵だった。キュベリの部下達も、似たり寄ったりの屈折した若者だ。同じ苦しみ、同じ怒りを共有しているので結束も堅い。
だけど今のチームキュベリは、一体何を共有して結束しているんだ? "チャン"とか"タン"とか、こいつら一体何を言っているんだ?
そこに漂う異様な空気に、ザックは困惑せずにはいられなかった。
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