起(5)初めての説得

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起(5)初めての説得

  ジェイクが"商品"を連れ出したのは紛れもない事実。では、何故連れ出したのか?  ザックにとっては信じがたいが、仮に裏切りとしよう。裏切ったのははたしてどっちだ?  ナンバー2のジェイクか? 若頭のキュベリか? それとも両方か?  ジェイクが裏切って"商品"を連れ去った可能性があるなら、ジェイクがキュベリの裏切りに気付いて、"商品"を護ろうと連れ出した可能性だって同じくらいあるのだ。  最悪、両サイドと敵対する可能性がある。まったくもって最悪だ。  ジェイクはザックの兄貴分というだけでなく、ナイフの師匠でもある。タイマン勝負では今でも勝てる自信がない。  チームキュベリはざっと見て50人くらい。暗殺特化のザックがまとめて相手に出来るのはせいぜい5人。集団で襲いかかられると正直厳しい。  何より最悪なのは、次期ボス候補と、ファミリーの未来を担うホープを同時に失う可能性があると言うことだ。  "商品"を取り戻し、無事に取引を終えたとして、これから先、ファミリーは生き残れるのだろうか……  ザックはボスが説得を頼んできた理由を理解した。ザックにとってジェイクは兄貴分で、キュベリは弟分。仲裁にうってつけと踏んだのだろう。  だが、ザックは殺し屋だ。殺人以外に何も出来ないから殺し屋になった。なのに仲裁なんて出来るのか?  予想していたよりも重すぎる荷物に、ザックは頭を抱えた。 「なあ若頭。ナンバー2はどうやって"商品"を連れ出したんだ?」 「それが、ちょうどアタシがトイレに篭もっていた時にやって来まして……」 「トイレ?」 「それが……情けないことに朝から腹が下っちまいまして」  まさか下剤でも盛られたか? チームの中にまだスパイが残っているのかもしれないな。 「対応したもんの話ですと、ジェイクのヤツは来て早々『"商品"を確認したい』とモナカちゃんの部屋に入り、少しして連れ出して行ったそうです」 「素通りか。見張りは何をしてたんだ?」 「ファミリーのナンバー2に『連れて行く』なんて言われたら、下っ端は従うしかないじゃありやせんか? 幸い、見張りはすぐにアタシに知らせてくれたんで、追跡術が使えやしたが」 「そうか。なるほど……」  良かった。チームのメンバーを殺してないなら、まだ和解の道はある 「それでナンバー2は"商品"のいた部屋にどれくらいいた? 何をしてたんだ?」 「時間は10分くらいですか。人払いされちまったんで、何やってたかは分かりやせんね」  ロリコン野郎なら"商品"が傷つかない程度にイタズラしてそうだが、ジェイクは大の熟女好きだ。考えられない。  じゃあなんだ? "商品"の無事を自分の目で確かめるのは分かるが、そこまで時間がかかるものなのか?  空白の10分に何かが起きた。そう言うことなのか?  兄貴に会って確かめるしかない……か。 「キュベリ、お前達のチームはここに待機していてくれ。オレが直接会って話してくる」 「いや、しかし!」 「集団で行けば、激突が避けられないんだよ! お前達は偉そうにふんぞり返る姿しか知らんだろうが、ジェイクの兄貴はオレより強いからな。しかも集団戦が得意と来てる。下手すりゃ、チームは一瞬で皆殺しだ」 「ですが……」 「オレ達のファミリーは小さい。結束してなきゃ他のファミリーに喰われちまう。力を合わせなきゃだめだ。内輪もめしてる場合じゃないんだよ! 若頭のお前なら分かるな? 分かるよな?」 「へい……」 「ははっ♪ 流石はキュベリだ。オレが見込んだだけのことはあるぜ♪」  渋々ながらもキュベリは待機を命じ、チームは大人しく従う。どうやら初めての説得は成功のようだ。  しかしまだ安心できない。今は首の皮一枚でなんとか繋がっているだけ。最悪の事態が回避出来たとは言いがたい。  次は兄貴か……。
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