21人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
承(2)裏切りの連鎖
「オレが思うに、これはカンタァの呪いなんですよ」
「呪いたぁ穏やかじゃないね。それで、カンタァってのは誰だい?」
「あ、カンタァってのがオレの仲間の名前です」
「するってぇと、最初の裏切り者が死に際に、キュベリのチームに呪いをかけたというわけかい?」
「そう考えると色々と辻褄があるんでさぁ」
「もう少し詳しく教えてくれるかい」
「へい」
マンモスの話は大体こんな感じだった。
チームのみんなが隠れ家で待機していると、若頭キュベリが護衛と共に"商品"を連れてくる。搬送中の"商品"は頭から袋を被せていたため、マンモスは未だに"ケモノビト"とは気付いていないようだ。
キュベリは地下に作られた秘密の部屋へ"商品"を搬入すると、保管中の"商品"の世話をカンタァに任せる。
カンタァはチームの中で、唯一家族に妹がおり、世話をしていた経験があったからだ。
一方でマンモスは「その巨体は室内での戦闘では活かせない」と言われ、隠れ家の外での警備を任された。
実際、マンモスの必殺技"巨像乱舞"は棍棒や丸太を両手に持ち、メチャクチャに振り回すってヤツで、敵味方どころか動植物や建築物にいたるまで容赦なく粉砕してしまう。隠れ家外の配置も納得の采配だ。
マンモスの食事はカンタァが持ってきてくれた。マンモスと一緒に食事しながら愚痴をこぼすのが、カンタァの息抜きだった。なんでも「隠れ家はピリピリしていて息が詰まる」のだそうだ。"商品"にファミリーの未来がかかっているとなれば、ピリピリするのも仕方ない。
だが、その日のカンタァは何かおかしかった。食事を持ってくる度に様子が変わっていったというのだ。
朝食時のカンタァはとてもイライラしていた。「ガキを押しつけられた! めんどくせぇ!」と憤っていたようだ。
昼食時のカンタァは戸惑っていた。「死んだ妹を思い出す」と言うのだ。カンタァには辛い過去があった。幼い頃、面倒を見ていた妹を、自分の判断ミスで死なせてしまったのだ。それ以来、カンタァは荒れに荒れ、悪の世界に堕ちてしまったのだそうだ。
夕食時のカンタァは優しい笑顔で微笑んでいた。鼻歌を歌ったり、とても幸せそうだった。でも、理由を話してはくれなかった。ただ一言、「オレはやり直せる」と呟いていたらしい。
真夜中の夜食時…。カンタァは来なかった。マンモスが腹を空かしながら待っていると、突如隠れ家が大騒ぎになる。カンタァが"商品"と一緒に消えたのだ。
そして夜が明け、"商品"とカンタァは確保された。"商品"は地下の秘密部屋へ。カンタァは両手を縛られ、チームのみんなから殴り蹴られ、最後に見せしめでキュベリが首をかき切られた。マンモスは、ただ見ている事しかできなかった。"巨像乱舞"で暴れ回れば、もしかしたら助けられたかもしれない。だけど、50人ものチームを敵に回す勇気が、マンモスにはなかったのだ。
「死に際にカンタァは言ったんです。『妹はオレが護るんだ』って」
「それが、カンタァの呪いだと?」
「だってその後からなんですよ! チームの奴らが少しずつおかしくなったのは! "商品"のことを"モナカちゃん"と言い始めたり、妹の素晴らしさを語り合ったり、嫌がらせばかりしてたヤツが妙に優しくなったり…。みんながみんな、おかしくなったカンタァみたいになっちまったんです。話を合わせてオレも"モナカちゃん"って呼んでましたけど、なんだか怖いんです。チームの奴らが…」
「なるほどねぇ……」
ザックは心の中で頭を抱える。まさかの呪いと来たもんだ。まいったねこりゃ。完全に専門外だよ。
とりあえず……一服するかね。
最初のコメントを投稿しよう!