承(3)呪いなのか?

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承(3)呪いなのか?

 呪いとは、分かりやすく言えば負の魔法だ。  どちらも呪文を唱え、マナを消費して発動するが、勝手はだいぶ違う。  魔法は使い方次第で人を救いも殺しもする。  しかし呪いは人を救わない。用途は"苦しめる"、"殺す"、"苦しめて殺す"の三択のみだ。  魔法は魔道士達が魔法紙を開発した事で、敷居がグッと下がった。魔法紙を手に持ち、紙に書かれた呪文を唱える…。簡単な魔法なら、僅かなマナを消費するだけで誰でも使えるのだ。  ちなみにマナ(いわゆるMP)は一種の生命エネルギーで、大なり小なり誰もが保持している。使いすぎればぶっ倒れるが、一晩ぐっすり眠れば回復する。また、魔法石などタンクアイテムを保持していれば、代用も可能だ。  一方で、呪いの敷居の高さは昔から変わらない。まず、呪文は世に出回らぬよう隠匿されており、裏世界でも入手は非常に困難だ。更に詠唱時には負の感情を込めねばならないのだ。込めるべき負の感情が足りなければ、発動しても大した効果は出ない。逆に込めすぎれば、発動時に詠唱者の命まで奪ってしまう。  魔法が発動する際には、詠唱者のマナが消費される。仮に永続的に続く魔法をかけられたとしても、詠唱者が死ねば効果は消える。  だが、呪いが発動する際、消費されるのは対象者のマナだ。だから詠唱者が死んでも終わらない。対象者が生き続ける限り、呪いは永続的に続くのだ。  呪いを解呪する方法も無いわけではないが、手段は限られている。  理想は"ノロイブレイカー"と呼ばれる解呪の専門家に頼る事。だが、絶対数が少ない上に、己の正義に殉ずる面倒くさいヤツばかりなので、悪党には法外な解呪料をふっかけてきたり、見殺しにする可能性もある。  故に悪党はもっと楽な方法を選ぶ。"押しつけ屋"を頼るのだ。奴らは解呪ではなく、身代わりに呪いを移す専門家だ。建前上は人形を身代わりにしているが、実際には生きた人間に呪いを押しつけている。身代わり人間を簡単に用意できる裏社会とは非常に相性が良く、人から恨みを買いやすい富豪や犯罪組織と良好な関係を築いている。正にクズの所業だ。殺し屋のザックに言えた義理ではないが。  はたして一連の騒動は、カンタァの呪いだろうか?  断定は出来ないが違うだろうと、ザックは思った。  呪いとは負の魔法である。すなわち、魔法使いとしての才能が必要なのだ。  しかしマンモスに過去を問いただしても、カンタァは魔法が苦手という印象しか感じられない。  むしろ魔法の才はマンモスにあるようだ。  マンモスはキュベリから、拳サイズの携帯用水晶玉を預かっている。これを使ってキュベリと連絡を取るのだが、一昔前の代物だからか、魔法の才が無いと起動すらできないのだ。ザックにはサッパリ使えなかったため、自在に使いこなせるマンモスの同行を拒めなかった。  カンタァの呪いでないとすれば? ザックはもう一つの可能性を考える。  すなわち、呪いのアイテムだ。  例えば、持ち主を破滅させる呪いの宝石。  例えば、人を斬らずにはいられない呪いの剣。  例えば、ページをめくるだけで正気を奪う魔道の書。  人手を転々と渡り続け、多くは所持するだけで発動し、自分の意志では手放せなくなってしまう。そして持ち主が死ぬまで周囲の人々を不幸に巻き込み続ける。そこで一度は終わるが、新たな持ち主を得ると呪いは再び発動する。  今の状況、似ているように思える。  誰かが呪いのアイテムを所持し、呪いが発動している?  だとしたら、誰がアイテムを所持している? どんな形をしたアイテムだ?  はっきりした証拠は無い。だがザックは直感で確信した。  呪いのアイテムがどんな物かはサッパリだが、所持しているのは"商品"自身だ。  しかし、ファミリーは"商品"を預かっただけだ。"商品"の身体検査は、預かる前に別組織によって行われている。"商品"が金目の物や危険な物を持っていれば、身体検査の段階で全部没収しているはずだ。  と言うことは……  身体検査の後に、何者かが"商品"に呪いのアイテムを持たせた可能性がある。  ファミリーが何者かにハメられた可能性が濃厚と言うことだ。  それはつまり、"商品"を連れ出したジェイクが、極めて危険な状況にあることを意味していた。
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