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プロローグ 見せしめ
男達の集団に囲まれたその若者は、両腕を縛られ跪かされていた。リンチを受けたのだろう。顔は何度も殴られ、腫れ上がっている。
突然集団が二つに割れると、長身で神経質そうな男が現れた。男はゆっくり歩み寄ると、若者の喉元にナイフを突き付ける。
「カンタァ。ねえ、カンタァ。な~んで裏切っちゃったのかなぁ?」
若者はうつむいたまま答えない。
「金が欲しかった? アタシ達に恨みでもあった? まさか…女だったりする?」
若者はうつむいたまま答えない。
「教えなさい。どこに"商品"を出荷する気だったの? 教えてくれれば楽に殺してあげるけど?」
すると若者は、うつむいたまま答えた。
「違います…。そりゃ違いますぜ、若頭……」
「違う? 何が違うのかしら?」
「あの子にはモナカって名前があるんだ。"商品"なんかじゃありやせん。断じて違いますぜ」
「ふうん。"商品"を名前で呼ぶわけだ」
「へへ……当たり前でしょう。オレっちはあの子の……モナカの……"にぃに"なんですから…」
「はぁ? にぃに? なにそれ?」
「へへっ…知らないんですかい、若頭……。有り体に言うと、兄貴って意味でさ…」
「そんな事は知っている! 何故お前が"商品"の兄貴を気取るのっ!?」
「決まってますでしょ。モナカがオレっちの妹だからスよ……」
「あぁ? お前、気でも狂ったか?」
「若頭には分からねぇでしょうけど……兄貴が妹を護るのは……当たり前の事なんスよ……」
「それが裏切った理由? つまり、情に絆されたって事? やれやれ…まったくもって救えないヤツだね」
若者は答えず、ただ不敵に笑う。
「カンタァ……。なあカンタァ。お前、忘れちまったのかい? だったら思い出させてやる。お前の本当の妹なら、とっくの昔に死んでるだろう?」
若者から笑顔が消えた。その目には徐々に絶望が宿っていく。
「しかもお前のせいで死んだんだってね」
「う……嘘だっ!」
「嘘も何も、お前がアタシに打ち明けた話だ。真相は誰よりお前が知っているだろう?」
「ち、違う! あれは違うんだっ! ま、護るんだ! 今度こそ……」
「憐れだね…。本当に救えない…」
「モナカはオレが護るっ!! "にぃに"のオレがっ!! 絶対に護るんだぁっ!!」
「やれるものならやってみなさい、にぃにちゃんっ!」
神経質そうな男は、哀れむような目で見つめながら、若者の首を切り裂く。
喉から鮮血を噴き出しながらも、若者は叫んだ。その命尽きるまで、声にならぬ声で叫び続けた。
ただ一言、"モナカ"と……
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