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ドールという仕事。
文字通り、人形になるのが惺月の仕事。
榛色の長い髪をサイドだけ白いリボンで後ろに束ねている。マットな肌質にかすかな血色、さくらんぼよりも淡い色の唇をしている。長い首筋が映えるようにフリルがカラーになっているドレスを着ている。
ゆったりと動くことは許されている。
仕事中、物を食べるのは最低限だ。紅茶などやクッキー、サンドイッチなどの軽食は許されている。
眠ったり本を読むのは良い。
惺月はドールハウスに住み、何体かの人間と別々の部屋にいる。
惺月の部屋はガラス張りで必要最低限の時間以外はすべて見られている。
客は惺月を見、時折話しかける。
客『いつも召し上がっているのは紅茶ですか』
客『今読まれている本は難しいものなのでしょうか』
客『今日は雨が降っていて月が濡れています』
客『あなたをそこから出して差し上げたい。そう思うのはご迷惑でしょうか』
「…」
彼らは惺月に触れてはいけない。
惺月は彼らに返事をしてはならず、彼らの姿も見えない。
惺月は人形として振る舞う。
お客様の想像を壊さない範囲の動きしか許されない。
営業時間は朝の7時から夜の9時まで。
それがドール。物心ついた頃からの惺月の仕事だ。
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