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夜の9時になると、ロシアの有名なクラッシック音楽が流れる。そしてドールハウスの窓に大きな帳が降ろされる。そうしてようやく長い勤務時間が終わり、控え室に戻ることができる。
「お疲れ様でした」
9時以降は声を出すことを許される。人形から人間に戻れる瞬間だ。
長い榛色の髪のサイドを綺麗な編み込みに結い、背に長く伸ばしている惺月は、その髪を指で梳いた。
サラサラと髪が指の間を流れていく。
陶器のように白くて﨟たけている指は、一度も洗い物や土いじりをしたことがない。
というより、下界に出たことがない。
3歳を過ぎた頃から、惺月の仕事は『DOLL』だった。この屋敷しか知らない。
「お疲れ様」
執事服を着ているオーナーが、部屋に帰ろうとする惺月に話しかける。
「惺月。そろそろ人間に戻らないか」
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