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(え?)
惺月はゆっくりとオーナーを振り返る。
こういう時でも、ドールであることを忘れない惺月だ。ほかの少女たちは時間が過ぎるとガヤガヤしたり、ペチャクチャおしゃべりしたりするが、惺月は人形の仮面を被ったまま生きているタイプだ。
オーナーは黒い執事のような服を着ている。が、控えめな感じではなく、やはり彼がこの屋敷の主人だ。
少し長めの黒髪と濡れたような黒い瞳、筋の高く通った鼻梁、硬質の唇……。オーナー自身がお人形のようですら思う。
「今度、パーティーを開く。君のお客様をご招待する。
その中で君が愛せそうな男が手をさしのべたら旅立つといい」
「……」
(ドールとしてはもう年を取っている。
でもガラスの向こうの世界で私に何ができるだろう)
惺月は……物心ついた時からすでにDOLLだったのだ。お人形で何も喋らず、ほとんど動かない。もちろん喋らない。動くときは最小限でできるだけゆっくりと美しく動く。人形としてのイメージを崩してはならない。
そして、この屋敷の会員となっている人たちだけが、惺月の住むドールハウスを眺めに訪れることが許されるのだ。
なのに、惺月に「このドールハウスから出なさい」とオーナーは言う。
(私はドールとしては年老いているのかしら)
惺月は考える。
(もう、人形としては美しくないのかしら)
けれども悲しいくらい惺月は人形だった。
誰かに人生を操られなければ生きていけない。
そして、今までも人形から卒業していったお姉様方を思い出す。
思い出すがそのことに感情など浮かばなかった。
淡々と惺月は、人形として生きている。
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