翁の憂鬱

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「そっ、そうだよね」 少し肩で息をしながら冷静さを取り戻し始めた豊作は椅子に座りなおし、改めて唐揚げに刺さったままの箸を手に持つと執拗に「フーーフーー」と息を吹きかけカブリとかぶりついた。 サクッ、パリッ。っという衣の音と共に口の中に広がる鶏肉の熱い肉汁に豊作は上をむいて口を開け「ほっ! ほっ! ほっ!」と首をリズミカルに左右に動かしている。 口の中の唐揚げを胃の中へと誘導する事に成功すると豊作は薄っすらと目に涙を浮かべた。 「はぁう〜〜っ。美味しいっ、美味しいよ〜〜。うっ、うっ。やっと会えたね。最近夢でしか会えなかったからね。夢だと味が分かんないんだよ……。正にぬか喜び、朝起きた時の絶望感が凄くて……」 そう言って本気泣きする豊作を見て、たっちゃんは今晩の飲みは長くなると感じ、残った生温いビールを一気に飲み干した。
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