翁の憂鬱

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翁の憂鬱

あぁ……。 月が怖い……。 豊作は風呂上がりに窓から見える月を見て、深く長いため息をついた。 雲が多い夜空に浮かんでいる月はそのため息を聞き申し訳なさそうに厚いくもに隠れていった。 今日の月は謙虚だが、月に住んでいる者達は図々しく、かなり厄介なのだ。 それを代表するのが‘かぐや姫’だ。 ここ半年以上、かぐや姫が地球に来ていないので平和で穏やか日々が続いていたが、そろそろ来る様な気がしてならない。 あの姫に振り回されるのも疲れるし、姫のお付きの銀髪の二枚目の男は直ぐに大声を張り上げ、小さな芝居小屋の売れない劇団員の様なオーバーなリアクションをするから怖いし正直かなり鬱陶しい。 なんでよくわからない竹取の翁の末裔になんかに生まれてきちゃったのだろう。 そしてその事とは別に今、豊作は悩みを抱えていた。 妻の満佐子の様子がおかしいのだ。 最近異様に若作りをしている。 それはかなりあからさまで、この間はミニスカートを履いたりして目も当てられない。 リビングのテーブルには今まで見たこともないファション雑誌が何冊も重なり、どうやらダイエットも始めているようだ。 ご飯も玄米になり、朝はスムージーとか言うドロドロした野菜ジュースになった。 そして何故か不機嫌なのだ。 だから、本当は玄米じゃなくて白米がいい、だとかスムージーとかいう野菜ジュースより卵かけご飯がいいだとか、言える空気でもなくて我慢して満佐子の食事に付き合っている。 でもミニスカートだけは 「ちょと短すぎるんじゃないか?」 と勇気をだして言っておいたけど。
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