四章

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井納さんは昼間からイタリアンのランチに連れて行ってくれた。窓際の席を予約してくれてたし、座る前に椅子を引いてくれる。公祐では到底できないであろうことを、さらりとやってくれる。 「初音さんみたいなサバサバした感じの人すごく好みなんです」 照れの片鱗も見せることなく口にしてくれるなんて。公祐はどうせ十年かかっても言えやしないのに。 「ありがとうございます。私も井納さんみたいに落ち着いた人、好みですよ」 井納さんはようやく「はは」と声を立てながらほおを赤らめた。 「嬉しいです。僕も35歳でね、周りがうるさいんですよ。でも生涯共に暮らす相手なら、自分が好きになれる相手が良いですからね」 年頃はちょうどいい。大人らしく私を大事に扱ってくれる。多分、幸せにしてくれる。付き合ってみていい相手のはず、なのに。 「ごめんなさい……井納さんはすごくいい人だと思う。私には勿体ない」 井納さんは少し悔しそうに、でもどこかスッキリした顔で尋ねる。 「……やっぱりあの子?」 「……はい」
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