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スマートフォンを見ている間に公祐が綺麗に乗った天ぷらを持ってくる。
「そこの抹茶塩を付けて食え」
公祐は醤油皿にこんもり盛られた塩を指した。だいたいコイツは私が一口食べて感想を言うまで離れない。
「いただきます」
私はカボチャの天ぷらに少し抹茶塩を付けて口に運ぶ。甘くてホクホクしたカボチャに、抹茶塩の塩辛さが絶妙だ。
「ん〜っ! 美味しい! 最高!」
テンション上がって大袈裟に言い過ぎたと思ったら、公祐が珍しく柔らかな表情で私を眺めている。
「……お前ほんといつも美味そうに食うよな」
しみじみ言うな、ちょっと恥ずかしいだろうが。不本意なのでやり返す。
「美味いからよ。私アンタの作るご飯好きよ」
公祐の顔が火を通したエビみたいに赤くなる。こういう顔をすると決まって憎まれ口を叩き出すから面白い。けれど今日は違った。
「初音のメシは作り甲斐がある」
「えっ……」
待て。今のどういう意味だ。深読みして良いのか。
「いらっしゃいませー! 公祐ちょっとお客さんご案内してー!」
厨房から飛んでくるおばさんの声に我にかえる。そうだ公祐は仕事中だった。「はいよー!」と玄関に走る彼の背中を見送りながら私は心臓を落ち着かせる。彼はライトグレーのスーツを着た私と同年代くらいのサラリーマンに挨拶した。
「いらっしゃい」
「こんばんは」
おい、冷静に見てみるがコイツ接客大丈夫か。お客さんの方が愛想いいぞ。
「お席ご案内します」
敬語はギリギリ使えるか。観察しているとサラリーマンはこちらの方を見る。
「あぁ、あのお嬢さんの隣がいいんです」
お嬢さんとは私のことかと気付いて右隣を見ると、彼はニコリとしながら一礼した。
「こんばんは」
「……こんばんは」
「それは天ぷら定食ですか? いつも美味しそうにここでご飯食べてますよね」
「そうです。美味しいですからね、ここのご飯」
「あ、すいません。僕も秋野菜の天ぷら定食で」
「はい」とぶっきらぼうに返事をした公祐が厨房に消える。サラリーマンは公祐が去った後、穏やかな口調で話しかけてきた。
「……どこに勤めてるのですか?」
「ここから30キロ離れた会社の営業職です」
「あ、結構離れてるんですね。僕はもう車で10分行った先の会社だからほぼ毎日ここに寄るんですよ」
全く気付かなかった。公祐といらん話をしているせいか。
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