三章

2/4

21人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
スマートフォンを見ている間に公祐が綺麗に乗った天ぷらを持ってくる。 「そこの抹茶塩を付けて食え」 公祐は醤油皿にこんもり盛られた塩を指した。だいたいコイツは私が一口食べて感想を言うまで離れない。 「いただきます」 私はカボチャの天ぷらに少し抹茶塩を付けて口に運ぶ。甘くてホクホクしたカボチャに、抹茶塩の塩辛さが絶妙だ。 「ん〜っ! 美味しい! 最高!」 テンション上がって大袈裟に言い過ぎたと思ったら、公祐が珍しく柔らかな表情で私を眺めている。 「……お前ほんといつも美味そうに食うよな」 しみじみ言うな、ちょっと恥ずかしいだろうが。不本意なのでやり返す。 「美味いからよ。私アンタの作るご飯好きよ」 公祐の顔が火を通したエビみたいに赤くなる。こういう顔をすると決まって憎まれ口を叩き出すから面白い。けれど今日は違った。 「初音のメシは作り甲斐がある」 「えっ……」 待て。今のどういう意味だ。深読みして良いのか。 「いらっしゃいませー! 公祐ちょっとお客さんご案内してー!」 厨房から飛んでくるおばさんの声に我にかえる。そうだ公祐は仕事中だった。「はいよー!」と玄関に走る彼の背中を見送りながら私は心臓を落ち着かせる。彼はライトグレーのスーツを着た私と同年代くらいのサラリーマンに挨拶した。 「いらっしゃい」 「こんばんは」 おい、冷静に見てみるがコイツ接客大丈夫か。お客さんの方が愛想いいぞ。 「お席ご案内します」 敬語はギリギリ使えるか。観察しているとサラリーマンはこちらの方を見る。 「あぁ、あのお嬢さんの隣がいいんです」 お嬢さんとは私のことかと気付いて右隣を見ると、彼はニコリとしながら一礼した。 「こんばんは」 「……こんばんは」 「それは天ぷら定食ですか? いつも美味しそうにここでご飯食べてますよね」 「そうです。美味しいですからね、ここのご飯」 「あ、すいません。僕も秋野菜の天ぷら定食で」 「はい」とぶっきらぼうに返事をした公祐が厨房に消える。サラリーマンは公祐が去った後、穏やかな口調で話しかけてきた。 「……どこに勤めてるのですか?」 「ここから30キロ離れた会社の営業職です」 「あ、結構離れてるんですね。僕はもう車で10分行った先の会社だからほぼ毎日ここに寄るんですよ」 全く気付かなかった。公祐といらん話をしているせいか。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加