四章

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四章

日曜日、「面倒だからここで待ち合わせにしましょう」と言われたので開店前の「ささき」の前で待っている。 なんかすごい、背徳感。落ち着きなくその場を歩き回っていたがふと、じゃりっと石砂を踏み付ける音に振り返る。 「……誰かと思った」 その人は私の待ち人ではなかった。柄にもなくワンピースを着てめかしているのに褒めもしない彼に、私は渇いた笑いしか出ない。 「邪魔?」 「別に。営業中じゃねーし」 ホウキとチリトリを持った公祐は、言うわりに私の周りだけ残して落ち葉を掃き始める。 「あ、そ」 沈黙が重い。 「ねぇ公祐」 「なんだよ」 「アンタさぁ……『俺にしとけ』の一言も言えないの。毎週わざわざ玄関先まで人を見送っておいて、勝手に人の来週の夕食決めておいて。それってさ……私以外の子にも同じなの」 絶句する公祐に「ごめん」と軽く謝った。 「言ってみただけ。30過ぎるとさ、そんなことが嬉しくて……毎週近くもない定食屋に行く理由になったりすんのよ」 前を過ぎた車から井納さんの横顔が見えたから、「バイバイ」と言いながら走る。 そうやって一人で舞い上がるから、私の恋は上手くいかないんだ。
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