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「あー、勿体ないことしたなぁー」
井納さんと別れたその足で「ささき」に戻ってもまだ店は開いておらず、「準備中」の札が下がっている。いいか、来週にしよ。
「初音?」
聞き慣れた声に振り向くと、近所のスーパーのレジ袋を提げた公祐がだらしなく口を開けている。
「こーすけ……よく気付いたね」
公祐はいつもより早口で私に詰め寄った。
「し……失恋か?」
デリカシーまじでないなコイツ。
「さぁどーだか?」
「こんな時間にそんなキレーな格好してこんな所帯染みた定食屋の前にいるんだからそうだろ」
決め付けるな。その通りだよ全く。
「……そうだったらアンタが今するべきことがあんだろ」
口調を真似してやると公祐はムッと顔を膨らませた。
「何だっつんだよ」
「キレーな格好したレディを前にして黙って指咥えて見てるの? この前みたいに」
「……だいたいその格好似合ってねんだよ。柄じゃねーだろ。調子狂うわ」
「ウルセェ」と思って睨んでいると、公祐は「あーあー」と謎の声出しをして、深呼吸して私を睨み返した。
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