一章

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さんざん大泣きをした後、もう冷めていたカツ丼の残りを食べて、お会計に向かうと公祐とやらが待っていた。 「お会計、いい」 「なんで」 「……泣かしたから。悪かったな」 「貰っておいて。馬鹿の奢りだから」 おばさんが横から口を挟む。ならいいか。 「……ごちそうさまでした」 「……また来れば」 タダ飯なのにスタンプカードにハンコまで押してくれた。 「名前は?」 「長束、長いに(たば)、そうそれ……初音(はつね)……初めての音」 彼は名前も書いてくれた。あんまり字は上手じゃない。 「初音、俺チキン南蛮が得意」 勝手に下の名前で呼ぶなし! ……まぁいいか。 「わかった次はそれ頼む……じゃーね公祐」 仕返しに私も下の名前で呼んでやった。玄関まで出てきてくれたけど、「ありがとうございます」の一言も言いやがらなかった。
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