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一章
「あれ? 長束さん、ひょっとして失恋した?」
直属の上司が人を一目見るなり言い放ってきたので私は口を尖らせる。
「開口一番女子に向かってそれですか? どんな神経してるんですか〜?」
この人と仕事をし始めて随分経つが、未だにこの人に口で勝てたことはない。
「いやいや、長束さんは女子じゃないだろ。もう31歳でしょ」
「そんなこと言うから的場さんは女子社員からモテないんですよ〜!」
彼のタチが悪い所は、私のような本気で怒らない人にしかこういうセクハラを言わないことだ。
「いやモテなくていいし。奥さんいるし」
嫌味ったらしく左手の薬指を見せつけるのもわざとだ。
「知ってますか的場さん。結婚はゴールじゃないんですよ。あんまり調子に乗ってると痛い目見ますからね!」
私はさっさとデスクに着いてパソコンを起動する。今日は何としてでも定時に帰りたかった。
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