ーーとある病院にて

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ーーとある病院にて

「ー先生。……今の娘の状態はどうなのですか…?」 無機質であり、清潔感のある汚れ一つと見当たらない白い部屋。その部屋の丸椅子に座った女性は、覚悟した表情でありながら僅かながら憔悴したようすが見受けられる。デスクには、その女性の娘である少女の深刻な検査結果がカルテと共に挟まっている。 「現状の段階では昏睡状態…ですが、呼吸器官や心臓の方には一切異常はありません。まだ、新種の病という可能性も捨てきれないので、血液検査やCTなどのスキャンという形で解析を進めていますが…」 「ーそうですか。……もう、あれから1年が経ったというのに…」 女性は床に視線を落とし、悔恨と哀愁の色を瞳に滲ませながら呟いた。約1年間もの月日、毎日この病院に訪れては 「燕…今日も来たわよ」 こうして少女に話しかけるのだ。 この部屋の窓際で病院の寝衣に身を包み、今も眠り続ける少女、ーー桐木 燕。 母親は今でも娘の状況を信じられないが、ここに来た当初はとにかく自分を責め続けたせいか精神状態が不安定になり、カウンセリングを暫く受けさせたものだ。 「こんなに…こんなに、長い時間眠っているなんて、本当にっ…困った子なんだから……!」 嗚咽混じりの母親の声。娘の名前を呼び続け、ベッドのシーツを握りしめていた。 しかしその声は少女には届かず、行き場を無くし、空中で霧散していく。 ーーふと、母親が気づいたように窓の外に視線を向けていた。その時の横顔はどこか厳しげなものに変わっており、先程とはまるで人格が変わってしまったようだった。 その後、名残惜しそうに娘を眺め、医師に挨拶をしてこの部屋を出ていった。 そして、この三時間後、 潰れた自家用車から夫婦二人の遺体が発見された。
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