国家革命

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王の不正を記す資料が届く波は収まることなくカヤトが作業の休憩を伝えるまで勇者団の手は止まることがなかった。わずか一日で国中の貴族たちは王都に税金関連の資料を搬入し終えたのだ。その資料はすべて紙である。日本にいたころに使っていたデジタル資料の便利さを思い知った。 総勢40名がかりでの作業を一時中断させるとカヤトは援軍を呼ぶことにした。 かつての知人や親友たちを呼び寄せれば作業の効率は格段に向上するだろう。その際には呼び寄せた者たちに関係のない資料を任せよう。 信用はいつうらぎられるのかわからないもである。本音でいうと力さえ貸してくれれば何も問題ないのだ。 ≪念話≫で宮廷戦士団の団長のトーラスと副団長のガイオスを呼び出す。 (.....これまで正体を偽ってきたことに謝罪する。すまないが、俺の友人たちを呼び出してくれないか?.....) トーラスが大きくため息をついたのがわかった。 (.....カヤト.....貴様は俺が感ずいるぐらい分からないたのか?.....俺の前でガイオスを秒で倒したときにもう感づいていたさ.....) カヤトは思わずせき込んだ。感ずいていたなら聞いて来いよ‼ (....カヤトさん.....実は私もカヤトさんがリーダーを圧倒しているのを見てもしかしたらて....) なんだよ俺バレバレだったじゃないか...... カヤトは大きく仰向いた。 (.....それなら俺が次に言いたいことは分かっているだろう?.....) (.....手配ならすぐにでもしてやりたいがお前の体調を考えるとな?.....) すべてお見通しだったか。実のところカヤトは疲労困憊していたのだ。 (.....今日はこのぐらいにしておく.....明日の明朝より作業は再開する.....それまでに手配しておいてくれ.....) ≪念話≫を終了させたカヤトは疲れは立てたように自室にへと足を運んだ。 留守の間にもしっかりと清掃されていたらしく、部屋は清潔感が保たれていた。 本心ではそのままベッドにダイブして休みたいのだが汚すことに少しだけ罪悪感を感じたためシャワーに向かった。 シャーワーを終え寝具に身を包んだカヤトの部屋と呼び出しが鳴らされた。 監視の魔法陣を飛ばし部屋の外にいる人物の顔を覗き見た。戦士の称号も持つサヤカだ。もう日本にいた時の臆病さは持ち合わせていなく立派な戦士の顔つきをしていた。 日本にいたときは、現代史が得意だったはずだ。明日にでも呼び出して今の帝国に必要な憲法を聞こうと思っていたところだ。いくら疲れているといえわざわざ向こうの方から来てくれたのだ。この機会を無駄にするのは惜しい。 カヤトは解錠するとサヤカを招き入れた。扉をそのあと三十度ほど開けたのはマナーだ。 いくらカヤトがサヤカを性の対象と見ないしていなくても周囲への誤解を防ぐ為の配慮といえよう。 「要件はなんだ?」 カヤトは鋭い視線をサヤカに向ける。 サヤカは視線で狼狽えた。いくら成長したからといえ、心の弱さが完全に克服される事はない。むしろ最恐と恐れられたカヤトの鋭い視線に恐怖を抱かない者は限りなく少ないだろう。 「なんでこれまで正体を隠していたのか知りたいんです!」 よく見るとサヤカは自分の掌に爪を深く食い込ませていた。苛立ちを隠しきれていない様子だ。 カヤトは迷わなかった。 「隠していたのは俺の勝手だ…俺が君たちに過去を明かす理由がなかった… この世界に召喚された時に王に啖呵を切ったのも俺が抱えている過去に理由があっただけだ。この世界を知らないふりをして君たちに同調していたのも、わざわざ勇者召喚などというふざけた事に巻き込まれた君たちを影でサポート出来る自信があったからだ」 サヤカの視線が痛く感じた。それでもカヤトはサヤカから目を離さなかった。 「英雄がいなくなり勇者が呼ばれた。その事実を受け止めて俺がするべき行動は君たちを元の世界に、日本に還す方法を見つけ出し、俺が英雄の座に舞い戻って力を振るうに限った。君たちの世界で俺が作り出した友情があるからこそ君たちに正体を明かすわけにはいかなかった。平和な世界から召喚という強引な手法を用いて本人の同意なく連れ去り、帝国の手駒としようとする王を俺がどんな気持ちで見ていたか君たちにはわからない。君たちに向ける顔などないと思ったぐらいだ。もうこれ以上は俺から語れる事はない…………」 語り終えた途端、先程までは感じていなかった気配を感じた。先程まで全く気づくことが出来なっかった。扉の外に30を超える人の気配がある。気配の主なのかは考えなくても分かる。この世界にきた時は馬鹿な常識がない連中ばかりだと思っていたが、彼らはこの世界で大きく成長した。全員が天才でカヤトが舌を巻く程の勢いで強くなった。 「……外で聞いているなら入ってこいよ……」 カヤトの声を聞いていた外の勇者団の友人達はぞろぞろと入ってきた。 「もうカヤトを責める気は俺たちに一切ない。俺たちを元の世界に還す方法を探してくれる程有難い事はない」 ケントが頭を下げた。日本の頃は俺に金を払って宿題をしてもらう程の、友達だからタダで手伝ってと言えない程の律儀者だけある。カヤトは心が締め付けられた。 何故なら、直接彼らを元の世界に戻す事なら容易に出来る。だがしかし、彼らをそのまま返した場合、彼らは浦島太郎と同じ気分を味わう事になる。 時に流れがカヤトの世界の方が10倍ほど遅いのだ。この世界で彼らが過ごした時は1年近い。つまり彼らは10年間程行方不明だったことになってしまう。その様な問題が発生しないように彼らを召喚された日にまで送り戻す必要がある。だがその手段が存在しないのだ。魔法での時空改変は魔法学の三大難問に数えられる程だ。 「感謝などいらない。むしろこれまで悪かった」 カヤトもケントと同じよう深く頭を下げたのだった。
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