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カリンとマルメロ
それは、やっぱり運命というものだろうか。
いつものように食卓で朝刊を広げ、普段ならほとんど読むことのない歌壇欄にたまたま目を走らせたのは。
「マルメロと花梨は違う 真実を知らないままで生きてゆく人」
ずらりと並ぶ短歌の中から理由もなくこの一首に視線が吸い寄せられたとき、心臓がどきりと跳ね、僕は小さくうめいた。
投稿者の名前を確認する。
「滝沢花梨」。
ああ、まだ短歌を詠んでいたんだな――。
「マルメロとカリンは、味も見た目も区別のつけにくい果実だ。それらを同一視する誰かへの視点に、どこかいとおしさのようなものが感じられる。作者自身の名前が詠みこまれていることからも、想像力をかきたてられる一首である」
有名な短歌結社の主宰であるらしい歌人の選評を読んでいると、さらに鼓動が早くなってきた。
「どうしたの?」
食後のコーヒーを運んできた妻が、動きを止めている僕の肩ごしに問いかけた。
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