カリンとマルメロ

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*** 今からきっかり四半世紀前の話だ。 バブルの残り香はすっかり消えて不景気まっしぐら、かと言って人々は悲観的になりすぎるでもなく、粛々と経済を回し文化を成熟させている時代だった。 スマートフォンなどまだ影も形もなく、携帯電話はごく旧型のものを一部の人が持っている程度で、町のあちこちに灰色の公衆電話が設置されていた。 僕がその村を訪れたのは盛夏だった。 短大を出て電気工事士の資格を生かして入社した通建会社で、通信インフラ整備の工事のために派遣されたのだ。 電柱を増設し、通信ケーブルの敷設を行うのが目的だった。 豊かな自然を観光資源とし、高原に擁するペンション群を旅行者に宿として提供することで、住人たちが暮らしに困らない程度に潤っている村だった。 その高原の(ふもと)で、僕はひとつの恋を得た。
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