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賢者との出会い③
怯える俺の肩をポンポンと叩きながら、「あまり脅かすなよ」とカイさんが後ろから出て隣にやって来た。
「顔がカタギじゃねえって、なあ?」
そして同意しかねる言葉を投げ掛けられる、どう答えたら良いんだと動揺する俺の耳に、ごほん、と咳払いが聞こえる。
「まだお前の召喚についても究明出来ていないのに、新しいマレビトが来たと分かり、気が急いてしまいましてね。それに、召喚の気配も感じなかったが」
「召喚の気配?」
「あるんだと、召喚されたマレビトがやって来た時に、魔力が高い皆さんは感じる気配ってもんが。俺もそれで来た時にぼんやりしてたら、慌てた様子の偉そうなおっさんたち携えたシモンせんせーに見つかってな?」
「歪み、と言えば良いのか。この世界にとって我々マレビトは『異物』だ。それを呼び出した瞬間、空間が一瞬歪む。私はそこの馬鹿の時に感じましたが、君の召喚は感知できませんでした」
つまり、元から存在しない異世界のマレビトを召喚したら、一瞬歪む……今までの色に新しい色を入れた時、みたいな感じかな?
入れたばかりだと不自然だけど他の色と混ぜていけば馴染んでいく、みたいな。
それを、俺は感じられなかった?
「ま、先生も誰も見付けられなかったアキトは、この俺が! 第一発見者!」
「第一発見者って、何か殺人事件みたいですね」
「まあ危うく喰われそうだったから間違ってねえな。そんな訳で先生、俺の時みたいにマレビトの異能ってやつをさ教えてやってくんねえか?」
「そうですね。見た感じ何も感じないのですが……少年、名前は」
「あ、アキトです。佐倉明人」
そう言えば名乗るのを忘れてた。
慌てて名乗ればシモンさんは一歩俺に近付いて、右手を翳す。
「よろしい。サーチ、『アキト』」
翳した右手の前にモニターのようなものが浮かび上がり、俺は思わず「わあ」と声を上げてしまった。
「ゲームみたい!」
「俺も初めて見た時思った!」
「静かにしなさい。一応魔法の一種です、対象のステータスなどを調べることが出来るもので……?」
説明をしてくれてたシモンさんは、ふとモニターに顔を近付けて表情を険しくする。
どうしたんだろうか。
「どうした、老眼か?」
「黙りなさい。いえ……これは……?」
段々と難しい顔をするシモンさんは突然モニターを消すと、俺の前に一歩で近付くとそっと腕を掴んできた。
「君からは、特質的なものをステータスでは確認出来ませんでした」
「……え?」
「筋力、知力、瞬発力、持久力など、基本ステータスは平均値。体力は平均よりやや下で魔力は記述なし、と言うことは無いのでしょう、カイと同様ですね。代わりにほんの少しだけ運が平均より高い程度。君は、普通の、人間です」
普通の、人間。
「しかしそれは我々が居た地球でのこと。むしろ、この世界の平均的な普通と称される人間よりも劣っていると言える。彼らは魔力、すなわち魔法を使うことが出来るが、君にはそれがない」
「それ、って」
「アキト。君はこの世界の誰よりも弱者だ」
冷たい現実が突き付けられた、と言うのに。
俺は、心の何処かで酷く安心していた。
良かった、俺は俺のままで居られるんだって。
異世界に来て異能なんてものが付いて、俺が俺で無くなるのが、怖かったから。
俺は俯きながら、2人に気付かれないように、ほっと息をついた。
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