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プロローグ②
それから、俺は1度も夢を見なくなった。
すっぽりと大切なものを失ったような、今までの人生でずっと傍にあったものを失ったような、喪失感にどんどん気が沈んでいく。
友人や両親に心配されるが夢を見なくなった程度で深刻になるのを笑われるのが嫌で、何でもないと返す。けど。
何て、つまらないんだろう。
毎日同じように平凡に生きている、でもそれが急につまらなく感じて俺はその感情に酷く落ち込んだ。
愛してすらいた、この平凡な日々を。
ずっと続けば良いと思ってた、それなのに。
非現実的な夢を見なくなっただけで、こんなつまらない世界に退屈で退屈で、俺は通学路で立ち止まり、俯いた。
このまま学校に行っても、いつもと変わらない。
最近は夢を見ないので、眠りたくもなくて、夜中ずっと起きている。
徹夜を繰り返したって、平凡な日々はそのままなのに。
「──さん、会いたい、よ」
1年間もずっと会っていた友人を夢と共に失った。
また彼に会えれば、同じ夢を見られれば、俺はこの平凡な日々でも生きていけるのに。
ぐら、と視界が歪む。
頭が酷く痛い、目眩がする。
寝不足が原因としか思えない、自業自得だ。
道端に蹲り、頭を抱えた。
──やっと見付けた。
突然声が聞こえる。
見付けた、って何だろう。
歪む視界と本格的な目眩に敵わなくて、俺はゆっくりと目を閉じた。
──退屈で堪らなかった。
また声が聞こえる。
退屈……俺と同じだ、退屈で堪らなかったのは俺と同じ。
──なら、おいで。
おいで、とは。
でも誘われているようなその言葉が、魅力的で俺は声に頷くように、そのまま体から力を抜いた。
ドサッ、と言う音を他人事のように聞きながら目を醒ましたらコンクリートの上では無く、出来れば誰かに発見されてベッドまで案内して貰えてますように、と図々しく思って眠りについたのだった。
そんな淡い期待は、目を醒ましたら打ち消されることを、知らずに。
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