夢のようなリアル①

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夢のようなリアル①

ぶわ、と吹く風に髪が揺れ動くのを感じて、パチリと目を開く。 いつの間にか仰向けで寝ていたのか、申し訳程度に白い雲が見える真っ青な空が広がっていて、誰にも見付からなかったのかと不運さにため息を溢して上体を起こす為に手を付いた。 かさり、とした感触が手のひらに広がり、コンクリートにしては熱くないどころか、ひんやりとしたそれに慌てて上体を起こせば、晴天から映る景色は寝落ちるものとかけ離れていて。 「何、だ……ここ」 目の前に広がるのは通学路にしていた住宅街などではなくて、何処までも広がるのではと思える草原。 見たこともない小さな花とところどころと異形の樹が乱雑に生えていて、剥き出しの石肌が草の合間から見える。 青い空、深い緑の草原、そのど真ん中に座り込む自分。 何がどうなっているんだ、見たこともない……いや、俺はこの景色を何処かで見たことがある。気がする。 それどころか懐かしさすら覚えていた。 とりあえず立ち上がる、足元のスニーカーから視線を腰元まで確認したが登校時に着ていた学ランのままだ。 辺りを見回したが残念なことに鞄が見当たらなくて、スマホと財布と学生証が無いことに気付く。 言えば手ぶらなのだ……いや、ポケットにティッシュが入ってる、ポケットティッシュ以外は手ぶらだ。 「夢でも、見ているのかな」 一歩、足を踏み出す。 しっかりと地を踏み締める感触に、夢にしてはとてもリアルだ。 俺が前まで見ていた夢は、歩くことはなかった。 体が浮いているようで、ぼんやりと世界を眺めていただけで。 そう言えば小さい頃から見ていたのに夢の中で俺が話したのも俺のことが見えたのも、彼だけだった。 同じ夢を見ていたからかな。 一歩、また一歩、足を進める。 夢で見たような景色が、目の前に広がり続けていて、夢のようなリアルのような、不思議な感覚。 「夢が、新しくなったのかも」 見なくなってから久し振りだから仕様も変わったのかも、とか、現実逃避甚だしくて。 何処かで「……ォォオ」と地鳴りするような、声、だろうか? そしてズシン、ズシンと大きい音と地面が揺らぎに、樹に止まっていたのか鳥が一斉に飛び去るのを視界の端に捉えた瞬間、本能が「ヤバい」と叫んだ。 何か来る、何か来る、何か来る! 近付いてくるのかどんどん大きくなる揺れと音、危険だと本能が訴えているのに体が動かない。 ハッ、ハッ、と浅くなる息が口から出る、そして空と草原の間を裂くように、それは徐々に姿を現した。 「オオオオオ!」 「……そんなの、アリかよ」 ゴツゴツとした石のような肌、大きい口から鋭利な牙と涎が滴る長い舌、ギョロリと動く大きい三角の目、蜥蜴のような肢体を重たそうに動かすそれは、今までの人生で拝むことなど無かった生き物で。 いや、ゲームのモンスターとして見たことがあるかも知れない、そうモンスターだ。 見上げるほど大きいそれは、ゲームで見たことあるモンスターみたいで。 俺はその瞬間、膝が震えて、足を後退させたが縺れてそのまま尻もちを付いてしまう。 「いや、ゆ、夢、夢でも、これは」 トラウマを抱えてしまいそう。 恐怖で尻もちを付いて震える俺は、ギョロリとした目がカチッと目が合う気がした。 そして俺と言う獲物に気付き、また咆哮を上げるモンスターが一歩踏み出してくる。 それだけで俺の体が跳ねる、「ヒッ」と情けない声を上げながら地面に打ち付けられるも、たった一歩で眼前に迫る大きい口に、反射的に這いながら前進する。 「い、いやだ、いやだ、食べ、られる、のは、いやだ……っ!」 夢なら今すぐ醒めて欲しい。 生暖かい息を背中に感じ、滑稽に逃げる姿に満足そうに喉を鳴らすので、絶望に振り返れば大きい口は開かれていて。 食べられる、もう食べられる。 食べられたら俺はどうなるんだろう、夢なら起きるだろうか。 でも、夢じゃ、無かったら? 大きい牙と長い舌と暗闇のような咥内が目の前で広がった。
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