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夢のようなリアル③
「そう、異世界。お前、見たところ日本人だと思うが、相違ないか?」
「えっ、日本人ってわかるんですか?」
「わからいでか。俺も、そうなんだぜ、日本人。見えねーかな?」
茶色い髪を摘まみ、「もしかして茶髪珍しい?」とおどけて笑う彼に、俺はブンブンと首を横に振った。
茶色い髪の人は少なくないし、確かに日本人っぽく白すぎない肌には親近感が湧く。
「お前みたいに黒髪黒目だったら分かりやすかったんだろうが、すまんな。一応錦戸快って名前もあるんだぜ?」
「錦戸さん」
「いや、ここでは苗字は言わない方が良い。どうも貴族、何て呼ばれる人種しか苗字、ファミリーネームって言うの? そう言うのは無いみたいでな。みんな大体名前だけ名乗ってるよ、俺はカイで通ってるから呼ぶならそれでどうぞ」
「カイさん……俺は、佐倉明人です」
「そうか、ならお前はアキトだ。アキトくんって呼ぼうか?」
「アキトで良いです」
ニヤニヤとからかうように笑う彼、もといカイさんは「りょーかい」と肩にかけていた刀を下ろし、膝を降りながらまだ尻もち付いたままの俺に手を差し出した。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
「あの、カイさん。異世界、ってどういう意味ですか?」
「あん? もしかして夢だと思ってるのか? 今さっき喰われそうになってたのに?」
「だって」
「あー、まあ、信じたくない気持ちも分からなくもねえよ? 現実離れし過ぎている。コンクリートで出来た街並みが気付いたらこうだ、夢を疑うわな、そりゃあそうさ」
カイさんが辺りを見渡すのを倣うように俺も見る。
さっきと変わらず草原と真っ青な空、さっきと違うのは真っ二つのモンスターの死体があって、その一帯が紫の液体で汚れているとこだろうか。
「アキト。お前はゲームとかやったことあるか? モンスターとか出てきて、武器を持ったり魔法を唱えて戦う、そう言うファンタジーのようなやつ」
「あ、あります。そう言うの多いからよく友人とやってました」
「なら、話は簡単だ。ここはゲームよろしくモンスターと魔法が存在するファンタジーごりごりの世界で、お前はそこに迷いこんだ異世界人なんだよ」
「……え?」
ファンタジーの世界で、俺が異世界人?
首を捻ると、カイさんは「まあ、信じないよなあ」とははっと笑う。
「むしろすんなり受け入れろって方が無理あるが、覆ることのない事実だ。お前はそれを徐々に飲み込んで理解しなきゃあならない」
「異世界である、ことを?」
「そうだ、だがお前はかなりツイてる。何てたって俺と言う同じ境遇の先輩に、誰よりも先に会えた」
「カイさんも、異世界人?」
「日本人だって言ったろ、ちゃんと地球生まれ日本育ちさ。お前と違うのはここに来て3年経つと言うとこかな?」
「3年!?」
3年も日本から離れてこんなモンスターのいる世界に来てる、ってこと?
それであんな大きいモンスターを一刀両断なんて出来る?
同じ日本人なのに?
「お、その顔はあれかな、日本人なのにモンスターを斬り殺したじゃん、みたいな?」
「う、すみません……」
「謝るな謝るな。すぐ謝るなんて、日本人かよ? あっ、日本人じゃん!」
「カイさん……」
「同じ日本人に会えてこっちはかなり舞い上がってんだ、気分悪くなったかい?」
「いえ……」
「優しいな。まあ、確かに日本人、ってか人間にゃあ難しいだろうさ。いや、達人とか武人とか呼ばれる人たちならイケるかもだが、あいにく俺は日本に居た頃はただのしがないインディーズのミュージシャンだったから、奮ってたのは刀じゃなくてギターだったし」
確かにカイさんの見た目はミュージシャンと言われた方が納得出来る。
「だが、何と言うか、ゲームとかで無かったか? ほら、異世界に召喚されたら異能に目覚めて世界を救っちゃいますか、みたいな。今日から勇者です、みたいなやつ」
「漫画、とかで見たことあるかも」
「なら少しは理解しやすいな、そう言うもんだと思えば良い。俺の場合、ここに3年前に突然来ちまったんだが、驚くことに身体能力が跳ね上がっていてね。筋力、体力、瞬発力。そう言ったもんが人並みを外れてたのさ」
「人並み外れた、身体能力、ですか?」
「そう、身体能力。ちょっと力を加えて刀を振るうだけで、さっきみたいな石のようなモンスターを斬れちまう程度の身体能力だ」
「な、何か、ファンタジーみたいな話ですね」
「おう、ファンタジーみたいな世界だからなあ!」
まだ信じられねーかな、と笑うカイさんに、少しずつ理解しようとするのを信じたくないと思う脳が悲鳴を上げてて、小さく頷くだけで精一杯だった。
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