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夢のようなリアル④
カイさんは俺の様子に気付いているのか、気にせずに話を続ける。
きっと俺が理解するまで何度でも教えてくれる、そんな気がした。
会って間もないけど、そう言う人なのだとわかるのだ。
「だが折角異世界に来たとこ悪いんだが、この世界を救う、と言うこと事態が無くなってるのさ」
「え?」
「普通、あると思うだろ? 魔王を倒すぞとか、そう言うの。無いんだ、これが。いや、正確にはあった。それはもう30年も前にね」
「30年前、ですか?」
そうさ、と頷くカイさんは近くの石肌に腰を下ろすと手招きして来て、隣に座るように促される。
隣に座れば、「立ってるのも疲れるからな」と片足を立てて座る彼に、体育座りする俺は「はあ」と気の無い返事を返してしまった。
だけどカイさんはニッと笑うだけで。
「30年前、この世界は魔王と呼ばれる魔物、モンスターのことだな、それを統べる魔族とやらに征服されそうになってたそうだ。魔物や魔族とは強大な力と強靭な肉体、魔法を用いる種族で、人間には太刀打ち出来ずに侵略され蹂躙され家畜のように扱われていたそうでな」
「そんな……」
「そこで人間たちは、対抗するべく強大な力を持つと呼ばれる異世界人、この世界では【マレビト】と呼ばれる異世界の住人を召喚することにした」
「マレビト?」
「俺や、アキト、お前のことさ。この世界では俺たちはマレビトと呼ばれる」
マレビト、と口の中で繰り返す。
まるで普通の人じゃないみたいだ。
「呼び出された【マレビト】はそれはそれは強力な力を持っていて、強靭な肉体で剣を振るい、対抗しうる強力な魔法を使い、魔王を見事討ち倒して封印し、この世界は平和になりましたとさ。で、終わらなくてな?」
「は、はい」
「それから20年後、今から10年前だ。この世界は再び危機に陥っていた。魔王を封じられたことを恨んでいた腹心の魔族が、人間たちに疫病をかけたんだ。人間の医療技術や魔法では消し得ない病でね、その魔族を倒しても消えないのだと言う」
「す、すごいですね」
「そうだな。だが、そこでまた【マレビト】召喚だ。呼ばれたのは少女で、聖女なんて呼ばれる異能の力で、疫病を取り除いてみせたと言う。そして勇者とすら呼ばれる前回のマレビトの力を受け継いだ息子と共に腹心の魔族を討ち倒して、再びこの世界は平和になったそうだ……で、まだ終わらなくて」
カイさんはそこで「はあ」とため息を溢してから片手の指を3本立てた。
「二度あることは三度ある、らしくて。それから5年後、ちょうど5年前。魔王と疫病の危機から救われたが、再び危機に陥っている。魔物たちが狂暴化したんだ。いや十分狂暴な魔物なんだが、魔族に使役されると更に統率されて襲い掛かってきた魔物たちが、人間、そして魔族すらも手当たり次第襲って来たと言う」
「魔物が」
「勇者の息子や聖女のお陰で少しは被害は減らせたが、原因がまるで分からない上に上位種である魔族とも争いあう。このままでは世界が滅びると恐れた人間たちは、そうもう分かるな?」
「マレビト、召喚ですか?」
「その通り! そして呼ばれた三度目の【マレビト】。彼は肉体は人並みだったが、魔法が歴代のマレビトの中でも郡を抜いていて、そして召喚したばかりだと言うのにこの世界の全てを見通すほどの知識を有していた、賢者だったそうだ。賢者の活躍により原因は突き止められ、魔物たちの暴走は収まり、更には彼の知識で文明は開拓されている──めでたしめでたし、ってな」
ふう、と一気に話し終えたカイさんは息を付き、「どうだ?」と苦笑いを浮かべるので話の壮大さに俺は首を横に振る。
「すごかった、です。何かこう、ゲームとか映画くらいの、壮大さで」
「だ、ろうな。俺も3年前にそう思ったよ。そして、俺も3年前に【マレビト】召喚された4人目のマレビトなんだけどな?」
「カイさんも、世界を救ったんですか?」
「普通そう思うよなあ、俺も思う。でもな、アキトくん、わかるかね。何も無いんだ」
「え?」
「勇者、聖女、賢者に救われた世界に呼ばれた訳だが、超平和なんだよなあ。まあ確かに? さっきみたいに魔物が人を襲ったりはある、それを助ける、くらいさ。わかるか、アキト。他の3人は、やれすごい魔法すごい肉体魔王倒して伝説とか、やれ聖なる力で謎の疫病から救うとか、溢れる知識と魔法で事件解決文明開拓とか、そう言うおいおい主人公過ぎませんって感じの異能だろ? 比べて俺はただの身体能力が人並み外れただけ。通りすがりに魔物を斬るくらいしか無いんだぜ? この世界の住人が俺を何て呼んでるか知ってるか? ちょっと人より強い傭兵だ。4人目のマレビトなのに傭兵扱い、これちょっとどういうことだね、アキトくん」
「わ、わかりません……」
それでも十分すごいと思うけど、確かに他の3人に比べると、その、何も無いかなあ、とは思う。
それにカイさんの話を聞いたら、他の3人は危機に陥っていて呼ばれたのに、カイさんは危機も何もないのに呼ばれたことになる。
「どうして呼ばれたのかねえ、俺。並びにお前も」
日本人だからってこんな低待遇なのか?
そんなカイさんの呟きに、そうだ、俺も話によれば5人目のマレビトになってしまうんだ。
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