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夢のようなリアル⑤
「俺も……カイさんみたいに、異能? がある、んですか?」
そう、口にした。
ここがファンタジーなら、もし俺にも異能に目覚めてたなら、認めざる得ない。
カイさんはキョトンと瞬きしてから、俺の肩に手を置く。
「うーん、マレビトならあると思うが、お前さっき魔物に喰われそうになってたしなあ。俺みたいに身体能力が人並み外れてる、って感じはしねえかな?」
「そうですよね、俺もそう思います」
「一応試してみるか? よし、立ってみろ」
「はい」
立ち上がるカイさんに合わせて一緒に立ち上がれば、「ほれ」と刀を差し出される。
「持って振り回してみろ」
「はい、お借りし、ま、!? くっっそ重!」
持たされた瞬間、ずしりとした重みで刀はすぐに地面に付いて俺はぷるぷるする腕と腰が悲鳴を上げてるのを感じた。
何だこのくそ重たい刀!
これを振り回してた!?
に、人間じゃない!
カイさんは震える俺からひょいっと刀を取ると、俺は脱力で膝をつく。
それを見て刀で肩叩きするみたいにとんとん、と叩きながら「うーん」と唸った。
「身体能力は無さそうだな」
「そ、そう、ですね。カイさん、そんな重い刀を振り回してるんですか?」
「おう。言ったろ、身体能力が人並み外れたって」
人並み外れた、って言葉の重みを噛み締める。
カイさんと言う存在だけでグッとファンタジーを感じてしまうし、夢でないことが刀を持っていた重さでいまだに震える手が教えてくれた。
「分かりました、とりあえずここがモンスターが居るファンタジーみたいな世界で、カイさんが物凄い身体能力を持っていて、俺とカイさんは異世界人、ええとマレビトだってことですね?」
「そうだ! 飲み込むのが早かったな、偉いぞ。良い子なアキトくんにはカイお兄さんお手製のべっこう飴をあげよう!」
「わ、わー……」
ポケットから布袋を取り出したカイさんは中から爪楊枝のような棒に刺さった飴を渡してくれる。
何やら期待した様子のカイさんの視線を受け恐る恐る口に含むと、口の中には馴染み深い甘みが広がって目を張った。
「べ、べっこう飴だ……!」
「おう、べっこう飴だとも。この世界にも砂糖があるんでな、それを水と合わせ溶かし固めて作ってるのさ。美味いだろ?」
「はい、何か急に落ち着きました」
「べっこう飴様々だなあ! また欲しくなったらいつでもやるから安心しろよ」
ファンタジーの世界でべっこう飴を舐める、だなんて、ゲームや漫画ではなさそうだ。
そんなところがやけに現実味を帯びて、口の中のべっこう飴の甘さに彼が日本人であることも教えてくれて。
ここはもう日本じゃないことを、何度も教えてくれるんだ。
「アキト? 大丈夫……じゃ、ないよな。けど、大丈夫か?」
「……はい」
顔を覗き込んで来るカイさんに頷く。
大丈夫じゃないけど、俺はただ衝撃を受けてるだけで至って健康だ、大丈夫だ。
「偉いな。此処に居ると、またさっきみたいな……のはそう見ないが、魔物に襲われるだけだから、街に行こうか」
「街に?」
「近くに俺が今ねぐらにしてる街があるんだが、それにお前は本当にツイてるぜ、そこにちょうど3人目のマレビトの賢者様が来ていてな。俺も3年前に会ってこの身体能力のことを教えて貰った。お前も何か教えて貰えるだろうよ、異能をな」
「賢者様」
「何でも知ってる歩く図書館だと思っていいけど、本人には言うなよ? すっげー怒る」
「言ったんですか?」
「言った。そしたらめっちゃ雷落として来て、避けるのが大変だった」
ははっと肩をすくめて笑うカイさんは、「心配すんなよ」と俺の背中をポンッと叩いてきた。
あんな重い刀を振り回せるのにかなり加減してるんだと思う、痛みすら感じないその接触に俺は瞬きしながらカイさんを見上げる。
「魔物が出ようが魔族が出ようが、俺が守ってやるよ。何せ、人より強い傭兵さんだからな」
「ありがとうございます、カイさん」
「良いってことよ、それに同郷のよしみだ。ウザいかも知れねえけど、お兄さんはアキトくんの先輩風吹かせようじゃねえの!」
「錦戸先輩」
「やめろ、3年ぶりの呼称だわ、落ち着かねえ。えーアキトくん? プリーズコールミー、カイ。オーケー?」
こんな草原のど真ん中で、近くには大きいモンスターの真っ二つな死体があるのに、カイさんと話してると酷く落ち着く。
初めて会ったのがこの人でよかったと、心の底から思った。
はい、と頷いて、カイさんと共に歩き出す。
何が待っているのか分からないけど、きっとこの人の傍に居れば安心だと、そう思った。
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