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賢者との出会い②
さあて、とカイさんが伸びをしてから此方を振り返り「アキト」と呼んできた。
「賢者様に会いに行くか、先に腹ごしらえするか悩むな? どっちが良い?」
「え、えっと、その、賢者様と言う方は、勝手に行って会える人なんですか?」
「…………その発想はなかった。なるほど、道理でいつもアポなしで会いに行くと不機嫌な訳だ」
「予定とかあると思うので、先に受付? とかあればなんですけど、してからの方が良いと思う、んですけど。もし予定が埋まってるならご飯を食べる、とか」
「アキトの言う通りだなあ。よーし、それで行こうか」
無計画だったみたいだ、カイさんは「アキトは偉いな」とよしよしとフードが落ちないように上から頭を撫でられる。
さっきのべっこう飴といい、カイさんには俺が小さい子供にでも見えているのではないのか。
カイさんの後ろを再び付いていくと、街の中心部に建つ役所のような建物に着いた。
カイさんに聞いてみれば、図書室と役場が合わさった所謂公務員の方々が働いている場所、らしい。
「すんませーん」
「あら、カイ。どうしたの?」
受付っぽいところに立っていた妙齢の女性が持っていた書類を置き、カイさん、そして後ろの俺に微笑んだので慌てて「こんにちは」と会釈すると「まあ」と嬉しそうな声を上げられる。
「挨拶が出来るなんて偉いわ、カイに見習って欲しいくらい」
「やめろよ、俺が挨拶出来ないみてえじゃねえか」
「何か用なの? 魔物討伐の報酬なら支払いは自警団でしょ」
「そいつはあとで貰うとして、今日はシモンせんせーに用が会って来ました!」
「シモン様? あんたいつもシモン様のいらっしゃる部屋まで行っちゃうのに、どうしたの」
「確認取ってから行かないと怒られるって知ってな」
「あー……ありがとうね」
お礼を言われたので、いえいえ、と手を振る。
女性はそれから近くの人に確認してからカイさんに向き直った。
「シモン様なら今ちょうど予定が無いみたいだから、カイが来たと伝えといたわ。確認取れるまで待っててくれるかしら?」
「おう」
そこでカイさんがどうよ、と言う様子でバッと此方を振り返ってきたので、親指を立てて頷いておく。
すると何やらざわつきと共にカツカツと言う音が聞こえて、誰かが角から出てきた。
目を引くような銀髪を伸ばした美形の男性が現れた瞬間、場が騒然とする。
「シモン様!?」
「ああ、皆は構わず各自仕事に勤しまれていて結構。私は調子の悪い馬鹿の様子を見ますので」
「シモンせんせーどうしたよ、こんなところまで来て。運動不足か?」
「ああ、そこの馬鹿です。何か悪いものでも拾い食べたのでしょう、突然アポイントメントを取るなどお前にそのような常識が──おや?」
そこで男性と目が合うと、彼は驚いたように一瞬目を張り、それからカイさんに視線を向けて「来なさい」とだけ告げるとすぐに翻し行ってしまった。
カイさんが「行こうか」と俺の肩を叩いて男性が行った方向へと歩くので、慌てて付いてく。
廊下を抜けた1番奥の部屋、カイさんが「お邪魔しまーす」と開けて入ってくので、「失礼します」と頭を下げて入れば、部屋の奥に1つだけある机の前に先程の男性が立っていた。
「楽にしなさい、人払いは済ませてあります」
「え?」
「フード、取ってくれってよ。頭が固いから言い方も回りくどくて敵わねえよな」
「カイ。日本語で内緒話をしたいようだが、私は日本語なら理解できている。言ってませんでしたが」
「うっわ、言っとけよ、そう言うのは3年前に!」
顔をサッと青くするカイさんが俺の後ろに隠れるんだけど、残念なことに俺より背が高いカイさんは隠れられてるのか。
言われた通りにフードを取ると、男性は「黒髪黒目」と呟いた。
「成る程。日本人は黒髪黒目、が普通でしたね。カイが懐いているので君も日本人、で相違ないか?」
「は、はい」
「新しい【マレビト】……何の吉兆があるのか、私にはまだ把握できて居なくて申し訳ない」
「吉兆?」
「そこの馬鹿から既に聞かされていると思うが、マレビトとは本来、世界的危機に直面した時に『最善の解決策』として呼び出されるものです。例えば1人目は魔王に対抗しうる力を全て持ち合わせた者となり、2人目は疫病を全て祓え癒すこの世界にまたとない聖なる力を持ち合わせた者となり、そして3人目は全ての状況を打破しうる策と魔物魔族に対抗する魔法に特化した叡智を授けられた者となる──人々が願い、それを形にしたものこそ【マレビト】召喚、なのです」
「な、なるほど……」
カイさんの話を簡潔に纏めた感じだ。
聞いたことを前提としてるからだと思うけど、よく一辺に説明できるなあと感心して頷く俺に、彼は「ですが」と続ける。
「4人目、そこなるカイの【マレビト】召喚は異例なもので、世界的危機など無いのに召喚されてしまった」
「あの……そもそも、その召喚って、誰かがやってるんですか?」
「良い問いだ。召喚、と言うものは本来的に精霊を使役する魔法の一種に当たる、これを精霊召喚、と呼ばれているが精霊召喚で生み出される魔法は威力が高く、精度もとても高い……その前に君には魔法の説明が必要となるだろうが、そこまで話すのは質問を脱している」
それは別の機会にでも、と一旦切られた。
「召喚を行われる人間は極めて少ない。更に異世界の人間を呼び出すともなれば、かなり大掛かりな儀式が必要となります。それを成せる者、召喚士たちが【マレビト】召喚している……までは分かりましたか?」
「な、何とか、ですけど」
「よろしい。そこまで大々的な召喚の儀式など普段起こりません。なので、世界的危機に直面し、人々の願いが1つとなった時、召喚士たちが『最善の解決策』を呼び寄せる、と言うこと」
「じゃあ、カイさんの時はその世界的危機も願いも無く、召喚が行われたってことですか?」
「そうなります。召喚士たちを集めましたが、彼らは5年前、つまり私を召喚して以来、儀式を行っていないのです」
そこまで話すと彼は、「ああ、申し遅れましたね」とフッと小さく笑う。
品の良い笑みとは裏腹に、肌がピリッと何か刺すような痛みを覚え、それから息苦しさを覚えた。
「私はシモン、シモン・ヴィラール。【マレビト】と呼ばれし者の1人だ。今後よろしく頼む、世界に招かれたばかりの【マレビト】の少年よ」
彼、シモンさんの圧力に気圧され、俺は後ろに隠れてるカイさんに「あ、圧がすごいんですけど……!」と小声で泣き付いたら、「めっちゃ分かる」と真顔で返された。
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