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ミンミンミンミン、ジリジリジリジリ、うるさく蝉が鳴いている。桜もとっくに散り、校舎の周りは淡いピンクから緑色へと変わっていった。背中を射す陽が沈んでいく。
僕は君を呼び出した。
放課後、静かで不気味な雰囲気がする廊下。その突き当たり。
僕はチャイムと同時にそこへ走った。
待った。
君を。
待った。
ひたすらに。
ただじっと。
君を待った。
空が紅く燃えていく。
君は来た。ゆっくり。
足が重いのかな?
ゆっくり、けど、確実に、僕の元へ近づく足音。
なんだか今日は暑いな。
鳴りやむ足音。僕は目線を戻した。
「ねえ、話って……なに……?」
僕は唾を飲み込んだ。
なんだろ、この感覚。……言葉がでない。
「その、あの、……うん」
「ん?」
自分の中でなにかが固まった気がした。言わなきゃ、という気持ちにしかならなくなっていた。
「……あのー、……好きです、鈴木のことが。だから、あの、その、僕と……付き合ってもらえま、せんか?」
力が一気に抜けた。そんな気がした。
けれどいまだに自分の中でうるさく鳴り響く心臓の鼓動。
そんなに鼓動が早いんじゃ、死んでしまうんじゃないか? 嘲笑気味に心の中で笑った。自分の中で、余裕を作ろうとしていた。
実際、僕の鼓動はだんだんと落ち着いてきた。
鈴木を見た。恐る恐る、見た。
僕には理解できないほど、複雑な表情をしていた。
はっきり言うと、嫌な予感がした。
「ありがとう……木村くんの気持ちは、とっても……嬉しい。けど……」
じっと、次の言葉を待った。
「けど、ごめん、なさい。木村くんとは、友達のままで、いたい……です」
外はすっかり暗くなっていた。
僕は濡れた目元を腕で必死に拭いながら自転車で坂を猛スピードで下った。何も考えず、ただひたすらに。
僕の心にぽっかり、空白ができた。
その傷は恐ろしく痛かった。
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