あれ?こいつ天然なの?

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あれ?こいつ天然なの?

 ······深い眠りの底から、私は突然引き上げられた。外から聞こえる怒声や叫び声で、私は飛び起きた。  寝室のドアが乱暴に開けられ、両親が叫ぶ。 「リリーカ!逃げるんだ!魔族が攻めてきた !!」  私の隣で寝ていた弟は、瞼を擦り状況を把握していなかった。外に出ると、漆黒の闇の中、馬の鳴き声や火矢が飛び交っていた。  それからの記憶は、所々抜け落ちていた。 隣家に住む親しい老婆を助けに行ったのが、私の運の尽きだった。  老婆を馬車に乗せた所で、私は魔族の連中に捕まった。私は魔族達の馬車に乗せられ連行された。  狭い荷台に押し込められた私は、足元の麻袋を絶望感と共に見つめていた。私の命など魔族の連中にとって、荷袋一つと等価なのだ 。  ······私は十八歳で死んでしまう。こんな事なら、村一番の美青年、フェトに告白しておけば良かった。  でも、告白しても結果は分かりきっていた 。ライバルが多すぎのだ。村一番の美人ネイル。村ニ番の美人サラン。村三番の美人ケイト。  村四番······ちょっと待てよ?私は村何番目だろう?両腕は縛られていたので、指を使わず頭の中で自分の順位を数えていた。  私は十四番目くらいかな?と考えていた。あの小さな村でこの順位。どんだけ絶望的なんだ私。その時、魔族の兵士の声が聞こえた。 「出るんだ娘!」  馬車はいつの間に停車しており、私は恐怖に怯えながら馬車から降りた。  目の前には、魔族の居城がそびえ立っていた。水が張られた堀の上に、強固な二重の城壁が広がる。  左右に城壁塔。巨大な居館の上には、空高く伸びていく塔があった。  二人の兵士に挟まれ、私は城門をくぐった。長い廊下、いくつもの階段、それが終わると、広い回廊で出た。  前の方から、こちらに歩いてくる人影がいくつか見えた。私の左右の兵士が、一斉に跪く。 「娘!頭が高いぞ!目の前の御方は、この国を統べる方だぞ!」  魔族の兵士の言葉を、私は半ば聞き流していた。私の村を襲った悪の元凶が今、目の前に立っていた。 「ん?この人間の娘は何だ?」  側近と思われる連中と、手にした何かの資料を見て話し込んでいたのだろう。悪の元凶は、私に気づいた。  悪の元凶は、若かった。まだ二十代前半と思われた。なぜか寝癖がついた金色の髪。紅い瞳。尖った両耳に高い鼻。細い顎と同様、身体も細身だった。  身長はそれ程高くない。小柄な私より頭一つ分高いくらいだ。育ちそ良さそうな顔。要するに、苦労知らずだこいつ。  白を基調とした、高価そうな生地の衣服を着込んでいる。腰には、何かの石で出来た杖を帯びていた。 「は!タイラント様!この娘はタタラ村の捕虜でございます。恐れながら、他の村の者達は逃走致しました」  兵士の報告に、私は耳を疑った。捕虜が私一人?そんな事ってあるの?どんだけ手際が悪いの?この兵士達。  でも父さん、母さん、弟のイシトは無事逃げれたんだ!良かった!この兵士達が無能で !ありがとう!役立たずの雑兵達! 「······ふむ。村娘。お前に聞きたい事がある。まずは名を名乗れ」  タイラントと呼ばれた若い魔族が、私を見下ろしていた。兵士が無理やり私の頭を抑え、跪かせたからだ。  ······私は覚悟を決めていた。どうせ私は殺される。なら、その前に言いたい事を言ってやるわ。  幸い私の他に捕虜はいない。後顧の憂いはないわ。私は兵士手を振り払い、立ち上がった。 「あんたね!人に名前を聞くときは、自分から名乗るって親に教えてもらわなかったの! ?」  左右の兵士が驚愕の表情をしていたが、私は無視した。 「何の恨みがあって私の村を襲ったの!何の権利があって私達の暮らしを奪うの!何の為に人間を傷つけるの!」  ······言った!言ってやったわ!私は足の震えが、全身まで伝染してきた。これでいいの。スッキリして死ねるわ······ 「え?魔族は人間を滅ぼしたらいけないのか ?」  ······はい?何を言っているの?この金髪魔族。 「私はそう教育を受けたのだが。娘。お前は違うと言うのか?」  金髪魔族は真顔で私を見ている。私は死を覚悟したついでに、もうひと暴れする事を決めた。 「あ、当たり前でしょ!命を奪う権利なんて 、誰にもないわ!あんたが受けた教育なんて 、あんたを洗脳する為のでたらめよ!」 「······洗脳?」  金髪の魔族は、両目を見開き絶句した。ろう人形のように固まり、しばらく微動だにしなかった。 「······娘。私が教えられた事が違うと言うのなら、お前が受けた教えを私に言ってみろ」  ······何を言っているのこいつは?本気で言っているの?ふざけて言ってるの?この金髪魔族の真意が分からない私は、覚悟ついでに、最後の大暴れをする事にした。 「······人に物を頼む時は、お願いしますって頭を下げて言うの!いちいち基本的な礼儀が欠落してるわよあんた!」  大理石が敷き詰められた回廊で、私の左右の兵士は顎が外れるかと思う程、大口を開けて固まっていた。  金髪の魔族の周囲にいた側近も、蒼白な顔をしている。金髪の魔族は、私に一歩近づいた。 「······私の名はタイラントだ。娘。そなたが受けた教育を私に教えてくれ。この通りだ」  金髪の魔族は、私に頭を下げた。あれ、こいつ天然なの?死を覚悟した私は、もうやり残した事が無くなり、途方に暮れた。        
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