春人

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春人

「いやー!すごかったよ春人くん!」 楽屋で呆然としていると、勢いよく一縷さんが現れた。スタッフさんが驚いていない感じ、たぶん、ノックはしたんだろうな。二時間ちょっとぶりに再会した彼は、なぜだかさっきより髪が乱れている。俺のライブってそんな感じじゃないと思うんだけど。 「いちるさん……。」 「あら、なんか消耗してますね?お疲れ様。」 消耗してますねって、こっちはぶっ続けで歌いまくった後なんですけど。そう反論する気力もなく彼を見上げると、なんだか妙な表情が返ってきた。どうにも説明のつかない顔を、音楽の人はたまにするよなあ。 座り惚ける俺に近づいて、ずれたメガネのテンプルに指をかけ、そのまま汗でしなった髪を掬う。彼の皮膚が俺の皮膚に触れるたび、違和感のようなものが神経を駆け抜けた。普段はこんなことしないのに。風景にではなく、異常な一縷さんに目を凝らした。彼の表情の向こう側、ちょうど頭蓋を抜けた辺りに、錯覚だろうか、暴力的ななにかが見えた気がする。 「春人くん。」 彼の瞳は、まっすぐ俺を見つめていた。その事実に、間違いはなかったように思う。 「君は俺の、神様だ。」
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