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(嫉妬)
してくれてる、と、言葉以上に態度に透け出ている皇紀のやきもちに触れた枻斗は、歓喜の想いをぐっと堪える。
『僕は枻斗より、大人だから』
と、謎の呪文と化した言葉を何かあるたび口にする皇紀に対し、
「やきもち妬いてくれてるんですか?」
などと言おうものなら、
「おっ、大人の僕が…そんな…っ」
子供っぽい感情に囚われているのを知られてしまった羞恥心から自分の殻に閉じ籠り、口をきいてもらえなくなるどころか今夜の営みさえ拒絶されかねない事態に陥ってしまうだろう。
(皇紀さんの曲がってしまった臍を元通りに戻すのは、ホント骨が折れるから)
己れの『よさ』を優先させて、同じ轍を踏んでは苦労した記憶のある枻斗は、自然な呼吸を繰り返す間に嬉しさで舞い上がっている自分を落ち着かせると、
「オレのは…ご近所さんとの良好な生活を続けるための処世術ですよ。その努力のお陰で、毎日野菜やら魚のお裾分けをいただけてるじゃないですか」
と、俯いたまま顔を上げようとしない皇紀に話しかけた。
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