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「お帰り」
皇紀の転居を機に、皇紀の勤務地に近い浜辺の大学へ編入した枻斗は、もうじき院に進む予定だ。
その年嵩の分、より精悍な体躯と顔つきとなった枻斗は慣れた様子で皇紀の細腰に空いた手を回すと、自分を見上げるその額へ優しく口づけた。
「お疲れさま。 今日は、どうでした?」
海水で濡れた体を皇紀に触れさせないギリギリの距離を保つ枻斗の笑顔を見つめると、一人勝手に鼓動が逸り出す。
…『恋』と呼ぶにはあまりにも拙いく、未熟な己れの想いに溺れるように思慕していた頃はとう過ぎたというのに。
それでもこうしてときめかずにはいられない人の瞳に映り込んでいる自分を見つけた皇紀は微笑むと、
「今日はね」
と、いつもとあまり代わり映えのなかった日常を話し始めた。
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