202号室、俺

1/1
前へ
/5ページ
次へ

202号室、俺

ポストにパンツが入っていた。 大切なことなのでもう一度言おう。 ポストに、パンツが、入っていた。 しかもただのパンツじゃない。 黒の、スケスケのやつだ。 前も後ろもスケスケだ。 こんな少ない布で、何が守れるっていうんだ? ええ? RPGの初期装備でも、もう少し防御力があるぞ。 この装備でいくのか?本当に? し、か、も。 横のところが紐になっている。 はっはーん。 このリボンを解けば夢の国に繋がっているというわけだな。 遠い日のクリスマスを思い出していた。 ワクワクしながら枕元のプレゼントを開ける俺。 丁寧にラッピングされたリボンを乱暴に解く、あの瞬間が興奮の絶頂。 とにかく、紐パンツには男のロマンが詰まってるんだ。 で。 そんなロマンの結晶を、誰がポストに入れたってんだ? ポストに入っているものなんて手紙くらいだと、信じて疑わなかった。 もしかしてこれがラブレター? このアパートの誰かが俺に愛を伝えようとしている? 103号室のかわいこちゃんがいいなあ。 名前も知らないけど。 あ、それとも、サンタさんか? 煙突から入るのは、不法侵入だからね。 近頃のサンタさんはポストに投函してくれるのか。 どうせあれだろ。 スマホのナビなんか使っちゃって。 トナカイさんの真っ赤なお鼻の代わりに、スマホで夜道を照らしちゃってるんだろ? 時代は変わっちまったよ。 でも。 生憎、地獄のサミシマスは終わったところだ。 もしかして、ごん? ごん、お前だったのか? スケスケパンツをくれたのは。 広げたパンツを眺めながらしばらく思考停止していた。 深夜。 帰宅して鍵を開けようとしたら。 ドアのポストから黒い紐が少し出ていた。 なんだろう、と思って引っ張ってみたら なぜかパンツが出てきたのだ。 こんなところ見られたらやばい。 ポストに入っていたんですよ〜。 なんて誰が信じる? 母ちゃんが見たら確実に縁切られる。 それどころか聖母マリアでも俺を擁護しきれないぞ。 32歳、彼女いない歴6年。 さえない、もてない、地味なサラリーマン。 そんな奴がパンツ持って外うろついてたら? 犯罪の匂いしかしねえ。 絶対に黒。 100%黒。 すぐさま社会的に終わる。 出会って5秒で合体★ どころの騒ぎではない。 1秒で終わる。 やばいやばい、とにかく部屋入ろ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加