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馴れ初め
ある時、由佳が一人放課後の教室で床に座り込んでいるのを見つけた。
「おい、何してるんだ?」
「こっち来るな、バカっ!」
近寄っていくと由佳は泣いていた。
床に散らばっていたのは油性ペンで落書きされた教科書。
【死ね】とか【ブス】とか、お決まりの文句の数々。
教科書の表紙だけならまだしも、中まで書いてあり、ところどころビリビリに破かれているページもあった。
「これ…」
「腹いせだって」
「腹いせ?」
「荒川君にこの間告られたんだけど、タイプじゃないから振ったの。それがエリカの気に障ったらしくて、クラスから総スカン食ってるの」
エリカはこのクラスの女王的存在。
肉体には一切手を出さないのが彼女のポリシーらしい。
美にうるさい彼女らしいといえば彼女らしいのだが、肉体に傷が付けば自分がやった証拠になるからというのを風の噂に聞いた。
とにかく、彼女に逆らえば男女問わず精神的にボコボコにされる。
その結果がこれだ。
さすがに頭に血が上った。
「ちょっと行ってくる」
「行くってどこへ?」
「エリカの所」
「やめてよ」
「やめられるかよ!お前がこんなにボロボロになってるのに」
「どうしてそこまでしようとするのよ!いつも喧嘩ばかりの私にそこまでしてもらう義理はないはずよ」
由佳の言う通りだった。
いつも顔をあわせれば喧嘩ばかりの日々。
そんな仲なのに、どうして由佳を助けようとしているのか。
この時初めて自分の気持ちに気付いた。
『由佳が好き』という事実。
それだけが自分を動かす原動力になっていた。
「由佳が好きだから」
由佳はボロボロと零していた涙を止め、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
それ以上何も言わなくなってしまった。
ただエリカをぶっ飛ばしたい。
その気持ちだけでエリカを探した。
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