Episode02

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 サプライズのやり方のマニュアルはあっても、サプライズをされたときのマニュアルはない。でも切実に知りたいのはそれだ。どういう風に喜んだらいいのか、喜び方が分からない。というかそもそも喜んでなどいないのだ。喜べる心が欲しい。わあびっくりした、すごーい、嬉しいー、有り難うー、と条件反射的に返せる人間だったらどんなによかっただろう。そういう奴と付き合っていた方が、日向も幸せだったんじゃないか。思う存分自分のしたいことができて。それを受け止めてもらえて。  でも日向だって馬鹿じゃないはずだ。今まで何回もこんな風に肩透かしを食らっているはずなのに、どうして性懲りもなく同じことを繰り返すのだろう。いい加減学習してほしい。それともしつこく繰り返して、いずれ樹に免疫がつくことを期待しているのだろうか。  有り難う、を言って終わるより、ごめん、と言われて終わる方が心が凪いでいるなんて、ひととしてどうかしている。どうかしている、本当。こんな自分に一体日向は何を求めているのか分からない。客観的に自分を分析して思う。持っていたって損する株をいつまでもだらだらと持ち続けているようなものだ。とっとと損切りしろ。投資初心者はいつか損を取り戻せるんじゃないかと甘い期待を捨てきれず、ずるずる傷口を広げてしまう。誰だって損はしたくないし、自分だけは損をしないと思っている。だからこそ博打をする人間はいなくならない。甘い誘惑に負けてくれる人間がいないと、投資も博打も宝くじも成立しない。けれど必ず、いつかは損をするのだ。損……。一体日向の中でどれだけの含み損が発生しているのだろう。いや、あいつのことだからそもそも損が発生している、ということすら分かっていない可能性が高い。 『自分がゲイだったとしてもあいつだけはないわ』  昔言われた言葉が不意に甦る。ひとりきりだったらたぶん、うわっと声に出していた。でもリビングには日向がいる。……
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