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Episode03
「あっ、課長、この間は有り難うございました〜、早速女子で分け合ったんですけど、めっちゃ美味しかったです〜」
「そう、それならよかった」
結局ヨーグルトはふたりで全部片付けきることができず、グループの女子に差し入れとして献上することにしたのだ。
「なかなか売ってるとこないですよね。あれ、めっちゃ高いやつじゃないですか。一体どうしたんですか、あんなにたくさん。しかもヨーグルトってチョイス、課長、前から思ってましたけど女子力高いですよね」
「まあちょっといろいろ手違いがあって……」
一体どういう手違いがあればヨーグルトを大量差し入れすることになるのか。相手に疑問を抱かせるより先に、
「金曜の午後イチ、アポ入れても平気か?」
話を逸らす。
「えー、何ですか急に」
「えー」の語尾が下がっている。平気か、と訊いてはみたものの、彼女に選択権はない。系列のしらゆり銀行から急遽持ち込まれた紹介案件には何としてでも彼女を同行させておきたかった。入社三年目の彼女……滝本はまだ上から降ってくる雑用に振り回されている身分だが、そろそろ案件獲得の経験も積ませてやりたかった。……というのは表向きの理由で、本当はこの紹介案件にキナ臭いものを感じていたからだ。リスク回避のためには、初めからできるだけ多くの奴を関わらせておくに限る。
案件獲得の予行演習だと言うと案の定彼女はまんざらでもない表情を見せたが、じゃあRフーズのバリュエーションは来週でもいいですか、と、ちゃっかりしている。自分が若手の頃はこうじゃなかった。ボスから振られる案件にNOと言うことなんて考えられなかった。NOと言った瞬間、必要とされなくなる世界だったからだ。もちろん彼女だって、本気でブッちろうなどとは思っていないだろう。でも冗談ですら樹はNOと言うことができなかった。
「あ、そうだ、佐竹くんにちょっと手伝ってもらおうかな」
佐竹、とは滝本がメンターとなっている一年目の新卒だ。
「ああ……そのあたりの割り振りは任せるよ」
ナメられているんだろうか。
とっつきにくい人間であることは自覚している。とっつきにくくて、でもナメられてるって……
最悪じゃないか。
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