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Episode06
『好き、とかさー、ラブの意味じゃなくても使うじゃん。だって事実、俺、あいつのことはちょっと気に入ってたし』
『使い勝手のいいパシリとしてだろ』
『ひっでー。そんなんじゃねーし』
『よく言うわ』
『俺に懐いてくれる希少な後輩だったしな。次の練習までに靴洗っといて、って言ったら、次の練習まででいいのに、放課後遅くまで残ってせっせと洗ってくれちゃうし。それでさんきゅー超助かるーって大袈裟に喜んでやったら、一瞬めっちゃ嬉しそうな顔するんだけど、すぐに俯いてそれを隠そうとするのが超かわいくて』
『かわいいか? 面倒くさいじゃん。つか男相手にかわいいとか』
『あー分かってるって。ちょっと俺もやりすぎたって反省してんだから。何ていうか、犬コロかわいがるみたいな感覚だったんだよな。そしたらうっかり大型犬に襲われちゃった、みたいな。本気にされたときマジ焦ったわ。違う違うそういう趣味じゃないから、って!』
『よくやるわー。てか俺、自分がゲイだったとしてもあいつだけはないわ』
心臓がばくばくいっている。何の気なしに額に手をやると、べったりと濡れている。上体を起こすのにあわせ、汗で背中にはりついていたシャツがゆっくりと剥がれていく。起き上がり、パタパタとシャツの中に空気を入れる。
最近こういうことが増えた。目覚めと同時に動悸がする。疲れを取るために寝ているはずなのに、目覚めたとき、眠る前よりどっと疲れを感じる。
記憶の蓋が開閉するタイミングは、自分ではどうすることもできないのだろうか。勘弁してほしい。夢の中ですらおかまいなしというのは。
年月を重ねていくごと、封じておかなければならない忌まわしい記憶は、これからもどんどん増えていくのだろう。今このときこの瞬間も、何年後かには黒歴史になっているかもしれない。そうやってどんどん捨て続けて、今に容量いっぱいになってしまうんじゃないか……
また寝直すのは難しそうだと諦め、ベッドから出ようとしたとき、自分の脚を横切るように日向の脚が乗っかっているのに気がついた。何だ……とさらに布団をめくると、日向は垂直に交わるような……ベッドを横断するような、壮絶な寝相になっている。
子どもか。
夢見が悪かったのはこのせいかもしれない、と思うと何だかすべてがどうでもよくなった。一旦剥がした布団を、またバサッと乱雑に日向にかぶせると、「んんん……」と声がした。もうちょっと動くと頭がベッドの下に落ちてしまいそうだった。さらに余っていた布団を押しやると、頭まですっぽり布団に埋もれてしまった。しかし足先だけが、こちらに向かってにょっきり覗いている。無防備な足裏に、つっ、と人差し指を走らせる。反応はない。右足、左足、と何度か交互にやってみるが、微動だにしない。
日向はくすぐったがりで、不意に脇腹とか首筋にふれると、ビクンと過剰に反応する。前にキスしていたとき、途中から、あきらかに感じているのとは違う、変な声を上げた始めたので、何かと思ったら、引き寄せるために顎から首筋にかけて添えていた手がくすぐったいと言う。大丈夫なときは大丈夫なのだけれど、一回スイッチが入ってしまうと駄目らしく、挿入のとき支えるために腰をつかむこともできず、結局樹はマグロ状態で横たわってるだけ(……)だったこともある。もっと、まだ足りないと貪欲にねだりながら、肌の表面にちょっとでもふれようものなら、「ひえあっ」と色気もへったくれもない声を上げて、樹の手をバシン、と叩く。ふれているのはピンポイントに性器だけ。あれはセックスとして成立していなかった。
つつつ、と足裏に走らせていた指を、今度は足指の間に潜り込ませる。起きていたら悶絶モノだと思うのに、ぴくりともしないのがおかしい。この様子を動画に撮って見せてやったらどんな反応をするだろう。……まあそんな暇人なことはしないけど。
つっ、つっ、と一定のリズムで指を走らせ続けていると、羊を数えるのと同じような効果を得て、いい具合に睡魔が押し寄せてきた。
再び横になる前に、……ああそうだ、と、日向の身体をぐいん、と九十度回転させ、正しい位置に戻す。結構荒っぽくやったのに、まったく目を覚ます気配がなかった。
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