5-①.二人だけの遊戯 ※

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 沙保はかすかに粟立った肌をたどって、燈子の肩からバスローブをはらりと落とした。乳房に両手を添わせると、柔らかなふくらみが手のひらでかすかに息づいた。初めて燈子に触れるわけでもないのに、沙保はたまらなくなって燈子の首すじに顔をうずめた。 「沙保、緊張してるの……?」  燈子は少し驚いた声で囁いた。沙保が言い淀んだのを肯定と受け取ったのか、燈子が小さく笑う気配がした。ふふっと軽やかな声が耳もとを撫でたかと思うと、燈子は沙保の背中をあやすようにさすり、そのまま上体を後ろに倒した。  燈子を見下ろすと、そっと沙保の頬に手のひらが伸びてきて、鳶色の目がいたずらっぽく瞬いた。 「朝になっちゃうよ?」 と。  燈子は沙保の手のひらをもう一度胸もとに導いて囁いた。 「触って」 と。  まだ柔らかな乳首が手のひらをかすめる、そんなかすかな刺激だけで沙保は気をやってしまいそうだった。  指の隙間からのぞくくすんだ赤に目を奪われ、親指の腹でそっと転がすと、燈子は息を乱し切なげに目もとをゆがませた。催促するような眼差しに誘われるまま、沙保は白い乳房に口づけた。  無防備に立ち上がった乳首は少しでも歯を立てれば傷つけてしまいそうで、沙保は慎重に口に含んだ。 「あっ……ん……」  吐息交じりの声が脳をじわじわと満たし、おかしくなりそうだった。固く尖った小粒にむしゃぶりつき、舌先で転がすたび、吸い上げるたびに、奥歯で嚙み潰してしまいたいような、そんな暴力的な欲求がむくむくと頭をもたげた。  消えない痕を残したい――。  素肌が触れ合う距離にいながら、燈子を通り抜けるだけの存在にしかなりえない。そんな現実がどこまでも沙保を追って来た。  こんなにもドロドロした感情に支配され、相手をうかがう余裕がなくなるなんて初めてだった。
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