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無意識に甘噛みを超えた力が入ってしまったのだろう、強く髪を引っ張られ沙保はハッと我に返った。顔を上げると、燈子の目じりにはうっすらと涙がにじんでいた。
「あ……」
とっさに俯いた瞬間、沙保の頬を伝ってぽたりと一滴のしずくが燈子の胸もとを濡らした。
「沙保、こっち向いて」
ぐいっと燈子のほうに顔を向けさせられ、ようやく沙保は涙をこらえていたことに気づいた。
「なんで沙保が泣くのよ」
「ごめん……なんか余裕なくて……」
「ちゃんとわたしを見て。幸せにしてよ今日は」
頬に触れている燈子の指先はかすかに震えていた。小さくかすれた声が、だがいつになく強い調子で沙保の胸に突き刺さった。
沙保は指先で燈子の涙をぬぐってまぶたに口づけると、そっと華奢な身体を抱きしめた。
「もうしないから、ちゃんと優しくするから……」
燈子はぎこちなく背中に腕を回すと、沙保の肩口で鼻先だけ頷いた。
それを見て沙保がもう一度胸もとに唇を寄せると、燈子は一瞬身体を強ばらせた。血は出ていなかったけれど、明らかに充血していて痛々しい。
「ほんとにごめん……気持ちよくなって、燈子さん」
傷を癒すように、ツンと立った乳首に丹念に舌先を触れさせているうちに、燈子のハスキーな声はしだいに甘さを帯びていった。
本当は背中や鎖骨、全身に口づけたかったのに、沙保を下へ下へと押しやろうとする燈子の手がそれを許してくれない。ちらりと燈子を見やると、まぶたの隙間から焦らさないでと言いたげなとろんとした瞳がのぞいていた。
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