5-②.綻び ※

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5-②.綻び ※

 膝から太腿をたどって点々と口づけを落としていくと、燈子の中心に近づくにつれ、濃厚な芳香が沙保の鼻腔をくすぐった。汗と愛液とが混じり合い、どこか蒸し暑い夏の日の雨上がりにいるような。  沙保は白い肌に頬ずりすると、その香気ごと貪るように柔らかな内腿を食んだ。つんと甘い匂いに脳を満たされ、たまらなくなって小さく吐息をこぼすと、燈子はびくりと全身を震わせた。 「んっ……息、当たってる……からっ」 「いい匂い……、燈子さん」 「もっ……、ばかっ」 「ふふ、こういうの嫌いじゃないくせに」  おなかに口づけながら下着に浮いた染みをつつっと引っかくと、燈子の腰はそんなかすかな刺激にも跳ね上がった。  だが沙保がそっと下着に手をかけると、燈子はぎこちなく身体を強ばらせた。 「……燈子さん?」  どうしたの? と燈子をうかがうと、潤んだ目はバツが悪そうに泳いだ。 「……恥ずかしくて仕方ないって言ったら笑う?」  こんなうぶな表情は久しぶりで、沙保はつい三年前の出会った頃のことを思い出した。その時も同じだった。大胆に沙保を誘っておいて、燈子はまるで初めて抱かれる少女のように戸惑っていた。それが会うたびに激しく求めるようになり、今では恥じらいなんてあってないようなものだったのに――。  沙保の驚きを見透かしたのか、燈子の頬がムッと膨らんだ。 「わたしでもこんな反応するんだって思ってるでしょ。乙女心くらいあるの、わたしにも」 「おとめごころ……」  冗談みたいなその言葉が本当だったらいいのに――。  沙保は込み上げる気持ちを必死で打ち消して、これはただのごっこ遊びだと自分に言い聞かせた。  茶化したつもりはなかったけれど、燈子は決まりが悪そうに火照った顔を両腕で覆った。  腕の下で形のいい唇がもごもごと動く。 「……おかしいでしょ?こんなの」 「おかしくない。かわいいよ」  沙保がそっと燈子の手首に口づけると、ゆるんだ指の隙間からジトッとした目がのぞいた。 「……そんなわけない」 「燈子さんには恥ずかしいことなんかひとつもないよ。誰よりも綺麗でかわいい」  合わせてくれない目線も、ムキになった口調も、隠せていない少し尖った唇も、全部――。  恋人ごっこに戸惑っているのは、持ち掛けた燈子も同じみたいだった。  沙保は着ていたものを脱ぎ捨てると、燈子を見下ろして言った。 「これならいい?」  沙保が上半身を露わにしたのを見て、燈子は目を丸くした。あばらの浮いた身体がみっともなくて、沙保は滅多にタンクトップを脱ぐことがなかったから。
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