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そして今日もまた、彼女がいる風景を置き去りにして電車は走り出した。
「……はぁ」
「何、どうしたよ、ため息なんかついちゃって」
突然肩を叩かれて驚く。其処にはクラスメイトの斉藤がいた。
「さ、斉藤? …なんで電車に──」
「あれ、知らなかった?おれもこの時間の電車に乗ってんのよ。いつもは先頭車両にいるんだけど今日は寝坊しちゃってさ。慌てて滑り込んだからこの車両な訳。そうしたら知った顔がいたからさぁ」
「……そう」
斉藤とは特に親しい仲ではなかった。明るくてクラスの中でもムードメーカー的な存在の彼とは正反対な性格の自分は合わないと思っていたから積極的に関わることはなかった。
そんな彼に突然話しかけられて内心戸惑いの気持ちが大きかった。
「坂本っていつもこの電車?」
「……あぁ」
「そっか。車両が違うと案外気が付かないものだな」
「……」
地味な僕なんかにも気さくに話しかけてくれる斉藤に少しだけ気持ちが解れた。
「でさ、坂本は何で座んないの?空いてる席があるのに」
「…別に座らなくても」
「──先刻の女子、何処の高校なんだろうな」
「!」
斉藤の言葉に一瞬にして固まった。あからさまに驚いた仕草をしただろう僕ににやにやしながら顔を寄せた。
「ひょっとしてあの子を見るためにいつも立ってんの?」
「なっ」
「好きなの?あの子のこと」
「~~~」
(あぁ…! なんでこんな目に遭うかな)
毎朝の愉しみのひとつだった秘密を会ったばかりの奴にあっさり暴露されることほど不幸なことはない──と思っていたのだが………
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