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公邸の高い窓から射す朝陽が、ダイニングテーブルを明るく照らし、爽やかな朝に彩りを添える。
先にテーブルについていた妻がコーヒーカップから顔を上げ、「あなた、おはようございます」と笑顔を向ける。
「秋江、おはよう」
少しキーの高い明るい声を妻に向け、首相の新造は、ナプキンを広げ膝の上に置いた。
「いただきます」
大好物のピラフを口に運ぶと二、三度咀嚼し目を細める。
「うん、うまい。秋江のピラフはほんとにいつも、味が安定してるよな」
「ありがとう。でも、簡単なレシピよ」
「まぁそうかもしれないが、キミのピラフが一番うまいよ」
あっという間に、皿の三分の一ほどを平らげる。
「あなた、サラダもね」
「お、そうだな」
何十年も毎朝のように妻にいわれ、それでも好きな物ばかりを先に食べてしまう。新造はすこしバツが悪そうに、瑞々しいレタスにフォークを刺し、口に運んだ。
いつも食事の際は、子どもを見るような優しい眼差しで自分を見つめる秋江だが、いつからか、ときおり、瞳に寂しげな陰が射すようになった。新造はそのことが心にひっかかっていたが、秋江は「気のせいよ」と取り合わず、はぐらかされた気分だった。
新造の目線が、秋江からピラフに戻ると、秋江の瞳が人知れず、憂いを帯びた。
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