比奈の想い。そして……

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比奈の想い。そして……

 黎明はじっと比奈が口を開くのを待つ。 「……父様と母様がああなってしまってからは、わたしのことを心配してくださるのは、兄様だけでした。両親に対して、あのように怒って下さったのは、黎明様が初めてです」 「うん」 「わたしは世間知らずです。恋というのも、まだ、知りません。でも、黎明様と一緒にいたいという気持ちは、あります。これが、恋、ですか?」  比奈は上目遣いで黎明を見上げる。緊張で潤んだ瞳を向ける彼女に、黎明は一瞬だけ意識が遠のいた気がした。だが、すぐに頭を振って邪な考えを振り払い、比奈の手を取る。 「そう、だと、思う。俺も、ここまで人を好きになったことが、ないから。これからは、俺たち二人で、恋を、愛に、かえて、いきませんか?」  思わず敬語になる黎明。比奈は彼につながれている手に力を入れて、握り返した。 「……わたしで、よければ、えっと、黎明様のお嫁さんに、してください」 「っ! 比奈!」 「きゃっ」  黎明は満面の笑みで、比奈に抱き着いた。 「嬉しい。すげえ嬉しいし、緊張したー」 「黎明様」  黎明はうりうりと、比奈の頭に顔を擦り付ける。彼女は照れながらも、されるまま。 「ごほんっ」 「あ。……あはははは」  神流がわざとらしく咳払いをすると、黎明は苦笑をこぼして、比奈を放した。  だが神流は何も言わず、立ち上がる。 「仕事がありますので、そろそろ戻ります」 「……反対、しないんだな。てっきり、斬られると思った」 「斬るなら、当の昔に斬ってます」 「え?」  逆に恐ろしいことを言われて、黎明は冷や汗を流した。 「それに、比奈が黎明様を受け入れたならば、反対する理由がありません。ですが、結納を済ますまで、決して比奈に手は出さぬように。まあ黎明様に、そのような度胸はないと思いますが」 「いつもいつも、一言余計だよ! おまえ、本当は怒ってんだろ!?」  怒りをみせる黎明に、神流は鼻で笑った。そして比奈にはやわらかい笑みを見せる。 「幸せか? 比奈」 「はい。幸せです。これからも、黎明様のおそばにいることが、できますから」  満面の笑みを浮かべる比奈に、間近で見ていた黎明は、思わず顔を覆った。 「かわいい。俺のお嫁さん、ほんとかわいい」 「比奈が幸せなら、それでいい」  黎明の奇怪な行動は無視することにしたのか、神流は比奈の頭を優しく撫でたあと、襖に手をかけた。 「神流。朝になったら、また来てくれ。神流も一緒に、父上と母上のところに報告に行くぞ」 「わ、私も行くんですか? 私の身分では、上様にお会いすることなど」 「比奈と家族の縁があるの、神流だけだぞ? それにこれからは、比奈の護衛役ってことで、身分上げるから問題ない!」  とんとん拍子に話が進み、兄妹は思わず顔を見合わせた。だが、これからも共にいられるのならばと、受け入れた。 「わかりました。では後ほど。失礼いたします」  神流は頭を下げて、部屋を出て行った。 「比奈」  黎明は比奈を再び、己の腕の中に包み込む。 「比奈、好きだ。大好き。これからは俺が比奈を守る。比奈の見たことのない景色を、たくさんみせてやるからな」 「はい。楽しみにしております」  比奈は恥ずかしいのか、頬を桜のような色に染める。 「黎明様」 「ん?」  比奈は黎明の顔を見つめた。 「お慕い、しています」  ぼんっと、黎明の顔が一瞬で真っ赤になる。彼は赤くなった顔を隠すように、比奈の額をくっつける。 「あー、もう。急に言うなよ。可愛い」 「黎明様も、そんなに赤くなって。可愛いです」 「男は可愛いって言われても、恥ずかしいだけだよ」  黎明は顔を上げて、慈しむように比奈の頬を撫でる。 「愛してるよ、比奈。一生、大事にしてやるから」 「はい。ずっとおそばに、いさせてください」  黎明は比奈にゆっくりと、顔を近づける。彼女も抵抗することなく、自然と瞼を閉じた。  二人は己の想いを伝え合うかのように、そっと口づけを交わした。
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