第6話 改造人間サマーン~情念変~

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第6話 改造人間サマーン~情念変~

その日、学校から帰った俺は、すこぶる機嫌が悪かった。 学校では、俺は、最近、こう呼ばれている。 ドーピングのし過ぎで、失敗した男。 あるいは、 全身整形手術で失敗した男。 どっちにしても、失敗してるし。 しかし、この、突然の外見の異様な変化のせいか、なかなか、普通のバイトがみつからない。 唯一、見つかったバイトは、例の、小林金融の中西さんが紹介してくれたものだったが、内容的に怖すぎる。 奴は、笑って、言った。 「テレフォンアポインターの仕事、なに、誰でもできる仕事だよ」 絶対に、怪しい。 ヤバイ臭いが、プンプンする。 ああ。 俺は、これから、どうなってしまうのだろうか。 こんな体にされてしまい、その元凶はというと、悪の組織とかを結成して、キャッキャッ、ウフフ、と遊び呆けている。 もう、2度と、もとの体には、戻れないのか。 俺は、自分の部屋で、一人、ベットに寝転んで天井を見つめていた。 もう、こうなったら。 ラグビー、やろう。 ラガーマンには、いい人が多いらしいし。 俺は、むくっと起き上がって、呟いた。 「そうだ!ラグビー、やろう!」 「やめときなよ」 いきなり、声が聞こえて、俺は、飛び上がった。 振り向くと、そこには、田中君がたっていた。 田中君。 俺より、一つ、年下の、線の細そうな感じの美少年。 兄貴にスカウトされて悪の組織に入団したという、何を考えているのかわからない、謎の人物。 彼は、黙ったまま、俺の横に腰かけて言った。 「ラグビーなんて、直之には、向いてないよ」 「そうかなぁ」 俺が言うと、田中君は、頷いた。 「そこそこ、根性はあるけど、まわりに流されやすく、優柔不断な君には、向かないスポーツだよ」 「何それ」 俺は、言った。 「俺のこと、ディスってるの?」 「そんなんじゃ」 田中君は、珍しく、動揺をみせた。 「ただ、君は、優しすぎるからって、言いたかったんだよ」 「俺が?」 「ああ」 田中君は、言った。 「バイト先では、困っている同僚に手を貸してあげるのは、当然のこととして、ただ、歩いているときに、道に迷っている老人がいたら、丁寧、親切に、道案内して、泣いている子供がいたら、どうしたらいいかわからず、おろおろして」 「えっ?」 俺は、少し、嫌な予感がしたが、きいた。 「よく、知ってるんだな」 「もちろん」 田中君が、にやりと笑っていった。 「君のこと、いつも、見てたから」 「はい?」 イツモミテタカラ? なんだ、それ。 俺の心で、警戒警報が鳴っていた。 これは、もしかして。 俺は、きいた。 「いつも、俺のこと、見てたの?」 「ああ」 田中君が、微かに、頬を赤らめて言った。 「時々、このハイツの前で、張ってたこともあったし、バイト先にも通ってた」 「なんで、そんなことを?」 俺は、青ざめるものを感じた。 こいつは、間違いない。 ストーカー、だ! ヤバい! 俺の額から、汗が流れ落ちた。 「あ、汗」 田中君が、ポケットからハンカチを出して、俺の汗をぬぐってくれた。 いや。 違う。 それは。 「それ、俺の、パンツ?」 「あっ」 田中君が慌てて、ポケットにしまったが、あれは、間違いなく、俺のパンツ、だ。 間違いない。 こいつ。 真性の変態、だ! ストーカー、だ! 俺たちの間に、気まずい沈黙が流れた。 そのとき、田中君が言った。 「これ、ジュース、買ってきてあげたんだよ。飲みなよ」 いや。 俺は、遠くひいていた。 その手には、もう乗らん。 俺は、にっこり、笑って言った。 「今、喉が乾いてないから」 「えっ?」 田中君が、涙目になる。 「僕、君がこのジュースに、はまってるって、お兄さんからきいて、わざわざ、隣町のスーパーまで買いに行ってきたのに」 「ええっ?」 「そうか、飲んでくれないんだ」 田中君の瞳から、涙が流れ落ちる。 「ええっ?」 俺は焦って、思わず、そのジュースを受け取った。 ドクダミ青汁ジュース? なんだ、これ? 俺は、鼻をつまんで、一気に飲んだ。 「ほら、飲んだから」 「飲んだ、ね」 田中君が、にやりと笑った。 「ええっ?」 俺の意識は、やっぱり、薄れていった。 目が覚めたとき。 俺は、裸で、ベットの上に横たわっていた。 「なんだ?」 体を起こそうとした、俺のケツに激痛が走った。 「ええっ?」 「気がついたの?直之」 俺の横で、同じく、裸で寝ている田中君が、俺を見上げて笑った。 「昨日は、すごく、楽しかったよ」 「ええっ?」 冗談ですよね? 俺は、ケツの痛みと共に、いろんなものを失ってしまったような気がした。
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