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 僕は宝精不動産を半年余りで退職した。 それからの転職もうまくいかなかった。  僕は相変わらず営業畑をウロウロしていたが、どこにいっても常に浮いた存在だった。僕は周囲に馴染めず、周囲は僕を排斥した。少なくとも僕は常にそう感じていた。  四度目の転職に失敗した僕は、虚ろなまま喫茶店で無駄に時間をつぶすことが多くなった。そんなときフト目にした『渓流日誌』という雑誌を眺めていた時だ。  紙面の中で廃線となった米富軌道が特集されていた。「米富軌道の朽ち果てた線路や駅舎が、山や渓谷と同化し、一種独特な風情を生み出している」、とライターは綴っていた。
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