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昭和という時代が終幕を迎える少し前、この米富軌道は廃線となった。まだ幼かった僕は母に連れられて一度だけこの路線を旅したことがあったらしい。もちろん、僕の記憶のどこを探してもその風景を発見することはできなかった。僕はまだ4歳ぐらいだったわけだし、またとりとめて印象的な出来事も起こらなかったせいだろう。
いつだったか母が僕にこう言った。
「良樹がまだ小さかったころ、山梨に帰省したことがあったでしょ? 憶えてる?」。
僕はただ茫洋としながら、「いいや」とそっけなく応えた。
「じゃあ、米富軌道のこともなにも覚えてない? あの鉄道に乗ったときのあんたの興奮ぶりは、ちょっと異常だったよ」
「うーん、なーんの記憶もないわ……」
母は少しだけクスっと笑うとキッチンのほうに行ってしまった。
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