ヴェネツィアマスクが咲いている

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ヴェネツィアマスクが咲いている

この前、久しぶりに『ソーシャルネットワーク』を観た。所謂、映画好きからはいつも訝しげな顔をされるんですが、僕はこの映画が好きです。 『ソーシャルネットワーク』はFacebook創設者のマーク・ザッカーバーグがFacebookを立ち上げてから成功を収めるまでの回想と、親友でありCFO(最高財務責任者)でもあるエドゥアルド・ザナリンとの間で行われる証言録取による訴訟手続が進められる現在進行を交互に織り交ぜた構成になっている。 マーク・ザッカーバーグ役は『グランド・イリュージョン』でマジシャン集団のリーダーを演じたジェシー・アイゼンバーグ。親友のエドゥアルド・ザナリン役は『沈黙―サイレンス―』『アメイジング・スパイダーマン』のアンドリュー・ガーフィールド。 いまでは注目作に多く出演している俳優が起用されています。 ただ、一番驚きなのが、監督がデヴィッド・フィンチャーという点です。 知ってる方も多いと思いますが、デヴィッド・フィンチャーは『ソーシャルネットワーク』を撮る前には『セブン』『ファイトクラブ』『ゾディアック』を撮っていて、その流れからのこの映画を撮ったってことに当時の僕はとても驚きました(しかも、映画を見てから知ったので驚きは十倍くらいでした)。 なぜデヴィッド・フィンチャーはSNSに注目したのか、なぜ「普通の」成功者の自伝映画を撮ったのか。 映画を観て、監督を知ったとき、ふとそんな素朴な疑問を持った。 彼の映画を観た人なら共感してくれると思うんですけど、初期三作はクライム・サスペンス的な映画のくせに謎解きに重きを置いていないのが特色で、『セブン』とかでいうと伏線とか全然ないのに、いきなり犯人が出てきて「こいつが犯人だ!」とか、『ファイトクラブ』は伏線を張ってたりするんですがオチが斜め上だったりとか、けっこう力業が多い。 僕の想像になるんですが、デヴィッド・フィンチャーという人は、おそらく伏線を散りばめて回収して犯人が誰々っていう映画にあんまり興味がない人なんじゃないかと思う。 それよりも日常のなかに潜む悪意だとか、誰しもが抱えている悪魔だとか、それによって変わっていく周囲の心だとか、日向の隣にある日陰を表現したい人なんじゃないかな、と。 そういう視点で見ていくと、この『ソーシャルネットワーク』の画面のなかでは「目に見えない怪物」がうろつき回って、登場人物たちの耳元で甘い言葉を囁いているように映ってくる。 当時はまだそこまでしっかりと認識されていなかった「SNS依存性」という一種の精神疾患を、 Facebookを中心にして翻弄される主要人物たちを通して浮き彫りにさせている脚本と映像は、 意識的にやっていたのなら先見的だし、 無意識的にやっていたとしても、やはりSNSの本質をしっかりと捉えていたんだと脱帽する映画だなと今にしてみると感じる。 こうやって改めて書いてたら、また観たくなってきました。 ☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆ ところで数年前、アノニマスという集団が話題になってましたよね。ガイ・フォークスの仮面を被ったハッカーの人たち。 僕は彼らの主張や思想、活動内容などいまだによく分かってないのですが、テレビで彼らの特集が組まれていたときに、人は匿名になると初めて「個」になるんだな、と思った。 僕たちはみんな、社会の何処かに属している。それ以前に、名前があり、家系のなかの一つの支流であり、そして性別がある。 そこに立場や地位や他者からの評価が加わっていくと、「この立場だからこう言うべき」「こういう状況に置かれているからこれは言えない」「これは(他者から見て)僕/私らしくない(あるいは『らしい』)」に縛られてしまう。 逆に掲示板やコメント欄、SNSの投稿なんかでは自由に思ったことを口にしてしまったりする場面ってよく遭遇しますよね。あるいは自分自身の経験でも思い当たる人が多いんじゃないかなあ。 僕らが「匿名性」っていうのを聞いたときに思い浮かべるのはやっぱりガイ・フォークスの集団のように、マスクを被った人々だと思います。 けど、本当は逆で、大なり小なり何処かのコミュニティに属している人々に「仮面」を脱ぎ捨てさせる性質を持っていると僕は考えます。 アノニマスの彼らも、 何かの事件・事故を中心とした周囲の彼女らも、 インターネットで性癖を露わにする誰かも、 『ソーシャルネットワーク』でのマーク・ザッカーバーグとエドゥアルド・ザナリンも、 「匿名性」によって魂を剥き出しにされ、秘めていたと自分自身さえも忘れていた「本音」が口から溢れる瞬間を見ていると、「自分」って何だろうといつも考えてしまいます。 ☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆ 中学生の頃、国語の教科書に載っていた『素顔同盟』という小説を、時々無性に読みたくなります。 最近知ったのですが、あれって短編なんですよね。 また読みたいんですけど、あれが入ってる本が見つからなくて困ってます。
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