4人が本棚に入れています
本棚に追加
二話:ただのウサギは冒険者ギルドで換金する
時が流れるのは早いようで、駆け出しの冒険者が集う街――【アルケー】に来て、もう半月になろうとしている。でも、未だにこの雰囲気に慣れそうもない。
私はケニーさんと別れた後、寄り道せずに冒険者ギルドに直行していた。
ここに来たばかりの頃はよく道に迷った。今でも容易に思い出せる。
道がわからなくて、泣きそうになったこともあったように思う。
森育ちの私からしてみれば、全部同じ道に見えるのだから、それは仕方がない。
でも、もう迷うことはない。ここでの暮らしに慣れてきたのだ。
まあ、行ったことがない場所は多々あるから、そこに行けばまた迷うことになる。
……そんなことよりも。
「……早く換金して、お家に帰ろう」
日は完全に落ち切っており、外はもう暗い。でも、冒険者ギルドはとても賑わっていた。
冒険者ギルド・アルケー支部には、酒場が隣接して建っており、冒険者達が楽しくお酒を飲んでいる。
多分だけど、今日こなしたクエストの報酬金でお酒を飲み、疲れを癒しているのだろう。
いいな、楽しそう。私も混ざりたい。だけど、私にはお金がないし、まだ成人していない。
人は十八歳になると成人らしいけど、兎人族……というか獣人族は成長が早い。
だから、年齢的には成人していなくても、身体的にはもう大人になっている。
ちなみに私は十六歳。身体的にはもう大人……と言いたいけど、何故か体は成長していない。まあ、年相応の体つきではあるからあまり気にはしていない。
お酒は飲んだことないけど、美味しいのかな。一度は飲んでみたいという気持ちはあるけど、多分飲まないと思う。お酒は高いし、大人が嗜むもの。そう私は決めつけている。
私はアップルジュースやオレンジジュースでいい。
ギルド内を見回しながら、受付へと向かっていると。
「おーい、ルーナちゃん!」
私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
声が聞こえてきた方向に顔を向けると、茶髪の女性がこちらに手を振っている。
冒険者ギルド・アルケー支部の受付嬢、ミーシャ・クロイツ。私に良くしてくれる数少ない人間だ。
私は駆け足で受付へと足を運ぶ。
「ミーシャさん、こんばんは」
「こんばんは、ルーナちゃん。遅くまでお疲れ様」
「お疲れ様です。早速で悪いですけど、換金をお願い出来ますか?」
「あら、もう? 私としてはもう少し話したいのだけど、仕方がないわね」
少し残念そうな顔をするミーシャさん。そんな顔されても、もう外は暗いし眠たい。
だから、話す時間もなければ話す気力もない。
私は【道具袋】から二種類のウサギと薬草を取り出し、用意された板の上に置く。
「これで、お願いします」
「わかったわ。えーと……丸ウサギが九羽、角ウサギが七羽で、薬草が十五個ね」
全部で十六羽か。かなり狩った方かな。少ないときは十羽もいかない。
確かに今日はかなり調子が良かった気がする。
トラップも上手く張れたし、いつも以上にかかってくれた。
それでも、三十近くはトラップを張っていたはずなのに、半分ほどしかかかってくれなかった。
ウサギ達も馬鹿ではないから、あからさまなトラップにはかかってくれないのだ。
もう少し上手く、自然に見せかけたトラップを張らないと。
私は今日の反省をしていると、カチャカチャという小気味いい音が受付の方から聞こえてくる。
ミーシャさんが【アルケー】での相場と照らし合わせ、そろばんで計算している音だ。
「うん、出たわ。換金額は1300ガルドね」
そろばんから手を離し、一度受付の奥に消えると、布袋を持って戻ってきた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
布袋を受け取り、中を見る。金貨が一枚、銀貨が三枚入っていた。
半月前まで、硬貨の価値はわからなかったけど、今では何となくだけどわかる。
この金額なら、一日は暮らせるだろう。
「……ルーナちゃんの置かれている状況を、私もよく知っているからあまり強くは言えないのだけど、一度ちゃんと洗った方がいいわよ?」
ミーシャさんの視線は、私の頭に向けられていた。
「……においますか?」
「そうじゃなくて、髪の色よ。石鹸を使って洗わないから、綺麗な銀髪が赤く染まっているわよ」
「ミーシャさんがそう言うなら、今日は念入りに洗ってみようと思います」
「それがいいと思うわ。後、耳も洗った方がいいわ」
ウサギの返り血をよく浴びるから、赤い色素が染みついてしまったのかな。
水で洗えば綺麗になるだろうか。綺麗にならなかったら、無駄な出費になってしまうけど、石鹸を買うしかない。
「ルーナちゃん」
「はい?」
「休むことも大切よ」
「わかってますよ」
ミーシャさんに心配されてしまった。半月の間、一度も休まずにウサギを狩り続けていたからだろう。
しかし、休みがないのはミーシャさんも同じ。
だけど……。
私は自分の肌と髪に触れる。肌はカサつき、髪はパサついていた。
それに引き換え、ミーシャさんはとても可愛い。
肌には艶があって、弾力もある。髪は肩より少し下ぐらいまで伸ばしているのに、枝毛が一つも見当たらない。とても綺麗な茶髪ストレートセミロングヘアだ。
「うん。これは早急に対策しないと」
私はミーシャさんに一礼すると、背を向けた。そのままギルド内を歩き、外に出る。
そして、小川が近くに流れる家にまっすぐ向かった。
最初のコメントを投稿しよう!