二話:ただのウサギは冒険者ギルドで換金する

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二話:ただのウサギは冒険者ギルドで換金する

 時が流れるのは早いようで、駆け出しの冒険者が集う街――【アルケー】に来て、もう半月になろうとしている。でも、未だにこの雰囲気に慣れそうもない。  私はケニーさんと別れた後、寄り道せずに冒険者ギルドに直行していた。  ここに来たばかりの頃はよく道に迷った。今でも容易に思い出せる。 道がわからなくて、泣きそうになったこともあったように思う。  森育ちの私からしてみれば、全部同じ道に見えるのだから、それは仕方がない。  でも、もう迷うことはない。ここでの暮らしに慣れてきたのだ。  まあ、行ったことがない場所は多々あるから、そこに行けばまた迷うことになる。  ……そんなことよりも。 「……早く換金して、お家に帰ろう」  日は完全に落ち切っており、外はもう暗い。でも、冒険者ギルドはとても賑わっていた。  冒険者ギルド・アルケー支部には、酒場が隣接して建っており、冒険者達が楽しくお酒を飲んでいる。  多分だけど、今日こなしたクエストの報酬金でお酒を飲み、疲れを癒しているのだろう。  いいな、楽しそう。私も混ざりたい。だけど、私にはお金がないし、まだ成人していない。  人は十八歳になると成人らしいけど、兎人族……というか獣人族は成長が早い。  だから、年齢的には成人していなくても、身体的にはもう大人になっている。 ちなみに私は十六歳。身体的にはもう大人……と言いたいけど、何故か体は成長していない。まあ、年相応の体つきではあるからあまり気にはしていない。  お酒は飲んだことないけど、美味しいのかな。一度は飲んでみたいという気持ちはあるけど、多分飲まないと思う。お酒は高いし、大人が嗜むもの。そう私は決めつけている。  私はアップルジュースやオレンジジュースでいい。  ギルド内を見回しながら、受付へと向かっていると。 「おーい、ルーナちゃん!」  私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。  声が聞こえてきた方向に顔を向けると、茶髪の女性がこちらに手を振っている。  冒険者ギルド・アルケー支部の受付嬢、ミーシャ・クロイツ。私に良くしてくれる数少ない人間だ。  私は駆け足で受付へと足を運ぶ。 「ミーシャさん、こんばんは」 「こんばんは、ルーナちゃん。遅くまでお疲れ様」 「お疲れ様です。早速で悪いですけど、換金をお願い出来ますか?」 「あら、もう? 私としてはもう少し話したいのだけど、仕方がないわね」  少し残念そうな顔をするミーシャさん。そんな顔されても、もう外は暗いし眠たい。  だから、話す時間もなければ話す気力もない。  私は【道具袋】から二種類のウサギと薬草を取り出し、用意された板の上に置く。 「これで、お願いします」 「わかったわ。えーと……丸ウサギが九羽、角ウサギが七羽で、薬草が十五個ね」  全部で十六羽か。かなり狩った方かな。少ないときは十羽もいかない。  確かに今日はかなり調子が良かった気がする。  トラップも上手く張れたし、いつも以上にかかってくれた。  それでも、三十近くはトラップを張っていたはずなのに、半分ほどしかかかってくれなかった。  ウサギ達も馬鹿ではないから、あからさまなトラップにはかかってくれないのだ。  もう少し上手く、自然に見せかけたトラップを張らないと。  私は今日の反省をしていると、カチャカチャという小気味いい音が受付の方から聞こえてくる。  ミーシャさんが【アルケー】での相場と照らし合わせ、そろばんで計算している音だ。 「うん、出たわ。換金額は1300ガルドね」  そろばんから手を離し、一度受付の奥に消えると、布袋を持って戻ってきた。 「はい、どうぞ」 「ありがとうございます」  布袋を受け取り、中を見る。金貨が一枚、銀貨が三枚入っていた。  半月前まで、硬貨の価値はわからなかったけど、今では何となくだけどわかる。  この金額なら、一日は暮らせるだろう。 「……ルーナちゃんの置かれている状況を、私もよく知っているからあまり強くは言えないのだけど、一度ちゃんと洗った方がいいわよ?」  ミーシャさんの視線は、私の頭に向けられていた。 「……においますか?」 「そうじゃなくて、髪の色よ。石鹸を使って洗わないから、綺麗な銀髪が赤く染まっているわよ」 「ミーシャさんがそう言うなら、今日は念入りに洗ってみようと思います」 「それがいいと思うわ。後、耳も洗った方がいいわ」  ウサギの返り血をよく浴びるから、赤い色素が染みついてしまったのかな。  水で洗えば綺麗になるだろうか。綺麗にならなかったら、無駄な出費になってしまうけど、石鹸を買うしかない。 「ルーナちゃん」 「はい?」 「休むことも大切よ」 「わかってますよ」  ミーシャさんに心配されてしまった。半月の間、一度も休まずにウサギを狩り続けていたからだろう。  しかし、休みがないのはミーシャさんも同じ。  だけど……。  私は自分の肌と髪に触れる。肌はカサつき、髪はパサついていた。  それに引き換え、ミーシャさんはとても可愛い。  肌には艶があって、弾力もある。髪は肩より少し下ぐらいまで伸ばしているのに、枝毛が一つも見当たらない。とても綺麗な茶髪ストレートセミロングヘアだ。 「うん。これは早急に対策しないと」  私はミーシャさんに一礼すると、背を向けた。そのままギルド内を歩き、外に出る。  そして、小川が近くに流れる家にまっすぐ向かった。
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