三話:ただのウサギは一日を終える

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三話:ただのウサギは一日を終える

 冒険者ギルドから家まで、三十分ほどかかる。  貧しい人々が暮らす貧民街の更に奥。誰も立ち入ることのない、無人の領域。そこに私の家はある。  何故、無人の領域なのか。それは私にもわからない。  でも、近くに墓地があり、気味が悪いのは確かだ。後、雑草が生い茂っている。 「後、もうちょっとで着くかな」  小川に沿って歩いていく。  魔灯を使うのに必要な魔石が出回らない貧民街だから、明かりは何もない。  だから、月明かりを頼りに歩く。とても心細い。  数分歩き続けると、家は見えてきた。雑草が生い茂る中、木造の小屋が建っている。  見た目は最悪だけど、私にとってはうってつけの物件だった。  理由は三つある。  一つ、食料には困らないこと。  小屋の周りに生えている雑草は数種類あり、全て食べられることがわかっている。名前は知らないけど、空腹のあまり食べてみたら、苦味はあるけど、腹痛を起こさなかった。  二つ、水の使い放題。  近くに流れる小川の水はとても綺麗で、飲んでもお腹を壊さない。  よく水浴びに利用しているけど、冷たいだけで何の問題もない。体は良く冷える。  三つ、この小屋が無料であること。  この辺りは【アルケー】の領主が破棄しているので、税金を払う必要がない。手に入ったお金、全てを貯金することができる。  私に残されている時間はたったの一年。それまでに私は自分を買わないといけない。  そのお値段、何と三千万ガルド。今のままだと、到底間に合わない。  でも、それが出来ないと――。  ――私は奴隷に堕ちる。それは何としてでも回避しないと。  そうこうしているうちに、小屋に着いた。近くで見ると、本当に小さい。人が住むには狭すぎる物件だ。文句を言う筋合いはないけど。  私は小屋に入る。目に映るのは、殺風景な部屋だった。  家具は何も無く、床には薄い敷布団とタオルケット。部屋の隅には、木箱が置かれている。それは机代わりに置いているのだけど、物置になってしまっている。  木箱に安物のナイフと【道具袋】などを置いて、すぐ側に置いてあるミーシャさんのお下がりの寝間着とぼろいタオルを持って、外に出た。水浴びをするためだ。  今日は念入りに体を洗う。少しは綺麗になってくれると嬉しい。  小川に足先を入れる。……冷たい。だけど、我慢して下半身を沈めていく。  そして、上半身。鳥肌が立った。体が急激に冷えていくのを感じる。 「うぅ……冷たい」  ブルブルと体を震わせながら、タオルで体を擦っていく。早く上がりたいけど、入念に洗う。 「次は頭……」  大きく息を吸って、潜った。そのまま、頭を洗っていく。息が切れると呼吸をするため、水から顔を出す。  そして、また潜りワシャワシャと洗う。 「……もういいかな」  小川から上がり、大きめのタオルで体を拭く。タオル越しでもわかるほど、体は冷えていた。  早く暖をとらないと。風邪を引いてしまう。  私は寝間着を着て、一度小屋に戻った。  そして、【道具袋】を持つと、また外に出る。小屋から少し離れた場所かつ雑草があまり生えていない場所に腰を落ち着かせた。火打石を【道具袋】から取り出し、打ちつける。 すると、火花が飛び散り用意していた枯れ草が燃え始めた。消えないように枯れ木を追加する。  火は燃え上がり、バチバチと音を立てている。火が安定し、消えないことを確認した。 【道具袋】から、今日採取したキノコを取り出す。そのキノコは、青い色をしていた。  近くに落ちている木の枝にキノコを刺して、焼く。焦げないように、気を使いながら焼いていく。 「そろそろ、いい感じかな?」  私はキノコにかぶりついた。  ……うん。言うまでもなくキノコだ。味付けはしていないから、キノコの味しかしない。調味料は高価なもので、私には買えないのだ。 「ゴブリンくらい倒せるようになったら、少しはお金に余裕が出てくると思うけど」  確か、ミーシャさんが言うには、ゴブリン一体あたりの換金額は500ガルド。  ゴブリンに限った話ではないけど、魔物の体内に埋め込まれている魔石などの質が高ければ高いほど、価値は上がる。  まあ、私には無理。兎人族は非力なのだ。  ゴブリンなどの魔物は、丸ウサギや角ウサギといった動物とは訳が違う。  でも……。 「ゴブリンぐらい倒せないと、私は奴隷に堕ちてしまう」  明日、マスターに話をしてみよう。マスターなら何とかしてくれるはず。私に一年という時間をくれたマスターなら……。  私はキノコをお腹いっぱい食べた後、歯を磨き、眠りについた。
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